本から本へ「ふきよせ会」眠れるお宝本交換会

2023/04/22(土)19:16
img

東京駅のランドマークであった八重洲ブックセンターが2023年3月31日で、その姿を消した。
街の再開発にともない営業を終了したのだが、紙の本の現状を表しているかのような出来事だ。

 

2022年の紙の出版物の販売金額は、2021年と比べ、6.5%マイナスの1兆1292億円。書籍は4.5%マイナスの6497億円。2014年の1兆6064億円から年々数字を落としている。電子出版は7.5%増の5013億円ではあるが、電子書籍は、0.7%マイナスの446億円であり電子コミックの4479億円に大きく水をあけられた。

 

しかし、イシス編集学校では、本の力と魅力が生きている。

4月9日の日曜日、花冷えの中、47期[守][破]の出身者たちが季節外れのふきよせ会と称し、同窓会である汁講を開催した。

 

 

詳しくはこちら。
「コロナ禍から3年 本楼でやっと会える。47守破特別汁講開催」

「 <速報>初めての再会へ。47期特別汁講「ふきよせ会」開催!」

コロナ禍のため、ずっと画面でしか会う事のできなかった47期だ。教室内で互いのテキスト回答を共読し、心をよせあった仲間たちは、懐かしさを募らせながら、「はじめまして」を交わし合った。

 

数多ある本に圧倒されながらの歓談を終えると、「眠れるお宝本交換会」が始まる。コロナにより生活が制限され、息苦しい毎日を本が支えてくれた。そんな大切なお宝本を持ち寄り交換する。誰がどんな本を持参するのか、自分に届く本は何だろう。数寄と数寄が交差する。

 

 

『月と幻想科学』(荒俣宏 松岡正剛/立東舎文庫)
『文字渦』(円城塔/新潮文庫)
『調香師の手帳』(中村祥二 /朝日文庫)
『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤/講談社文庫)
『運動脳』(アンデシュ・ハンセン、 御舩由美子/サンマーク出版
『小林賢太郎戯曲集』(小林賢太郎/幻冬者文庫)
『量子力学の多世界解釈』(和田純夫/ブルーバックス)
『タオは笑っている』(レイモンド・M・スマリヤン /工作舎)
『バウルを探して』(中川彰 川内有緒 /三輪舎)
『砂糖の世界史』(川北稔 /岩波ジュニア新書)
『美しいもの』(白洲正子/角川ソフィア文庫)
『みだれ髪』(与謝野晶子/角川春樹事務所)
『言葉と無意識』(丸山圭三郎/講談社現代新書)
『マンハッタン物語上・下』(フランク コンロイ /講談社文庫)
『ミニ・ミステリ傑作選』(エラリー・クイーン/創元推理文庫)
『一兆ドルコーチ』(エリック・シュミット他/ダイヤモンド社)
『ムツゴロウの純情詩集』(畑正憲/中公文庫)
『「待つ」ということ』(鷲田 清一/角川選書)
『ハザール事典』(ミロラド・パヴィチ/創元ライブラリ)
『世界を変えた書物』(山本貴光/小学館)
『空飛ぶ木』(ラフィク シャミ/西村書店)
『チェーザレ8巻』(惣領冬実/講談社 )
『デジタルで読む脳×紙の本で読む脳』(メアリアン・ウルフ/インターシフト)
『おひっこし』(沙村広明/アフタヌーンコミックス)
『過去と和解するための哲学』(山内 志朗 /大和書房)

 

ブビンガに並べられたお宝本

本はくじ引きで新たなオーナーに手渡されたのだが、「この本欲しくて、欲しいものリストに入れていました」と『小林賢太郎戯曲集』を持って満面の笑みでそう告げる人もいれば、ヨガインストラクターの師範には、原題が『ボディ&ソウル』の『マンハッタン物語上・下』本が届く。

 

記者は、『調香師の手帳』を持参したが、イシス編集学校の師範代のお父様の著者だと聞いて驚いた。 ちょうど3年前に、香りについて調べるために購入した本だ。
手元に届いた本は、『言葉と無意識』。著者はソシュールの研究者で、目次を読んだだけでも、ロゴスとパトス、ソシュール、複数の主体、フロイトとユングと、ぐいぐいと興味を引くワードが連打されている。知的冒険へのお誘いだ。本へのDiveの期待が高まる。

 

 

   

 

 

 



この日、仕組まれたように本を媒介として対角線が引かれ続けた。元々、本とはそういうもので、読み手を引き込む手すりが用意されている。中には、全10巻の『チェーザレ』の8巻だけというお宝本もあったが、きっと、鮮やかな編集契機を生んでいることだろう。

25冊の本は、新たな世界を新しいオーナーに届けるために旅立った。キーボードを叩くだけで、翌日には欲しい本が届く便利な時代ではあるが、そこに予想外の出会いはない。本はもっと未知な出会いや交際を楽しむことができるものなのだ。お宝本の交換をきっかけに、 共読会の場も生まれそうだ。
47守破の関係も新たな関係線が引かれ続けていく。

 


  • 北條玲子

    編集的先達:池澤祐子師範。没頭こそが生きがい。没入こそが本懐。書道、ヨガを経て、タンゴを愛する情熱の師範代。柔らかくて動じない受容力の編集ファンタジスタでもある。レコードプレイヤーを購入し、SP盤沼にダイブ中。

  • 【83感門】TIDEに乗って〜校長メッセージ〜

    柳田國男は『海上の道』で、海から来たものについて論じた。遠い昔、海流に乗って日本へとたどり着いたものたちがいたのだ。   第83回感門之盟のテーマは「エディット・タイド」EDIT・TIDE(海流)は回文になって […]

  • 【83感門】待ち遠しくて「うずうず」

    ショートショートの動画が流行り、「いいね」一つで関係が完了する時代。しかし、一方的に受け取るだけでは物足りない。イシス編集学校は、発信者も受信者も互いを編集する。   講座の節目となる、83回目の感門之盟は、初 […]

  • 【82感門】今宵、ほんのれんバーで

    本との偶然の出会いから、意識すらしていなかった思考が形になることがある。 言語化できなかったもどかしさがページの中に現れる事もあり、予期せぬアケとフセに未知への扉が開くこともある。出版をめぐる状況は相変わらず厳しいが、人 […]

  • 【82感門】ピテカントロプスの縫い返し

    歴史はいつも編集され続ける。 日本史では、鎌倉幕府の樹立は、1192年から、1185年に、日本最古の貨幣は和同開珎から、富本銭に改められた。 猿と人と間の猿人はピテカントロプスと名付けられたが、最近では、ホモ・エレクトゥ […]

  • 【82感門】ミメロギアが生み出すデーモン

    『言葉の本質』(今井 むつみ 、 秋田 喜美 中公新書)がベストセラーになっている。オノマトペを手がかりに、アブダクションにより、言葉と身体の関係、本質に迫っている。chatGPTが予想を超えた勢いで広がる世の中で、言葉 […]