ピーターパンが集う夜――53[守]汁講ルポ

2024/07/30(火)08:00
img

 関東地方が梅雨明けした日、53守の夜空に3つのオンライン汁講の星が輝いた。そのひとつが、第一回進塁ピーターパン教室汁講。約2時間のあいだに5人の学衆が出入りした、自由な往来の汁講である。総山師範代は、あらかじめ組んでいたスケジュールを学衆の登場に合わせて卒意で柔軟に動かしていく。進行ナビの巧みさに加え、学衆どうしが交し合えるように順番を入れ替えて場を温める編集力を発揮した。

 

 自己紹介といえば、編集学校での定番は「お菓子な私」だが、今回の汁講で行なわれたのは「駄菓子な私」。学衆の回答にヒントを得た、総山師範代のアレンジである。お菓子を駄菓子に変えることでよりいっそう幼な心を感じるお題になった。キャベツ太郎、ミニコーラ、アポロチョコレート、フルーツ餅。エピソードを語るそれぞれの見立てに、「なつかしい」の声が上がる。自己紹介が一巡したところで、さっそく予定を変更して歓談タイムになる。総山師範代から教育の話題をふられた学衆Sさんが、イシス編集学校での学びはAIドリルとは対極にあると思う、と感想を伝える。すると康代学匠が「理解に走ると編集は止まる。編集しながらコトを進めていくと、ぐっと引き上がる」と名言を放った。画面の向こうで皆がメモを取る。学衆Yさんが新たに登場し、二人のお子さんの可愛い姿を見せてくれたSさんと康代学匠は退出。

 

 残った一同で今度はミメロギアに挑戦する。お題は「蛍・金魚」。わずか5分のあいだに、次々とチャット欄に回答が書き込まれた。

ただよう蛍・ゆらめく金魚(Yさん)

ポッとホタル・キラッと金魚(Gさん)
発光する蛍・反射する金魚(Yさん)
ズボンの蛍・スカートの金魚(Tさん)
青い蛍・赤い金魚(阿曽番匠)
青い火蛍・赤い火蛍(Gさん)

 

 仲間の回答から発想のヒントを得つつ、新たなミメロギアが生まれてゆく。学衆Oさんが登場して「駄菓子な私」を披露すると、ミメロギア第二弾が始まった。今度は「信長・家康」だ。お城好きな総山師範代らしいチョイスである。口火を切ったのはやはりYさん。捻りを効かせて「弓矢の信長・トラバサミの家康」。愛知出身のTさんは「尾張の信長・岡崎の家康」と観光案内のポスターをイメージさせるコンパイル情報で攻める。Yさんが「人斬りの信長、人質の家康」と返すと、阿曽番匠が駄菓子を取り込んで「カラムーチョな信長・都こんぶな家康」と応じてきた。ここで、Oさんが炸裂した。

激流の信長・大河の家康
辛ラーメンの信長・カップヌードルの家康
アニキの信長・オヤジの家康

 

 歴史をよく知らなくて…、と学衆から声があがると、「知らないからこそ自由にミメロギアできるはず!」と阿曽番匠から檄が飛ぶ。すると「部下にしたい信長・上司にしたい家康」「短距離走の信長・長距離走の家康」とGさんがイメージを広げる。

 

 ミメロギアは、みんなでつくると楽しい。そんなことを実感しながら、最後の歓談タイム。「仕事中もついお題への回答を考えてしまう」とOさんが白状すると、「入門前はいったい何を考えて過ごしていたのか不思議」とTさんが応じる。「30年くらい、飽きずに続けられそう」と編集学校での学びの楽しさをGさんが語り、午後10時半、お開きとなった。直後、教室にYさん、Gさんからミメロギアの再回答が届く。

 

 たった2時間、けれど密度の濃い時間であった。参加者は5人全員、当然のように番ボーのエントリーを果たした。汁講が背を押したこと、間違いない。

 学衆に熱く編集道を語る総山師範代。力強いこの表情をご覧ください。

  • 福澤美穂子

    編集的先達:石井桃子。夢二の絵から出てきたような柳腰で、謎のメタファーとともにさらっと歯に衣着せぬ発言も言ってのける。常に初心の瑞々しさを失わない少女のような魅力をもち、チャイコフスキーのピアノにも編集にも一途に恋する求道者でもある。

  • 一途に、ラッシー◆53[守]汁講ルポ

    黒の服に白色っぽいズボンのすらりとした眼鏡の若者が豪徳寺駅に立っている。頭文字A教室の笹本直人師範代だ。7月13日土曜日午後14時40分。事前の案内で時間だけ伝えて日付を忘れるというハプニングがあったものの、なんとかこ […]

  • 藤と連句と――53[守]師範数寄語り

    53期[守]師範による「数寄語り」シリーズの第二弾は、イシス歴16年目という福澤美穂子だ。着物もワンピースも着こなし、粋人と少女とを共在させる福澤は、10年前の師範代時代に学衆の回答に胸キュンしたことも、昨夜の53守の師 […]

  • 【青林工藝舎×多読ジム】大賞・夕暮れ賞「言葉を越えるものを伝えたい」(福澤美穂子)

    多読ジム出版社コラボ企画第五弾は青林工藝舎! お題本は、メディア芸術祭優秀賞受賞の傑作漫画『夕暮れへ』。アワードの評者は『夕暮れへ』の著者・齋藤なずなさんだ。エントリー作品すべてに講評がつき、多読ジムSeason14・春 […]

  • 【MEditLab×多読ジム】見えない世界を知るために( 福澤美穂子)

    多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教 […]

  • 【三冊筋プレス】木があるところ(福澤美穂子)

    白洲正子もチャペックもウィリアム・モリスもメーテルリンクもみんなボタニストの編集的先達だ。<多読ジム>Season08・秋、三冊筋エッセイのテーマは「ボタニカルな三冊」。今季のライターチームはほぼほぼオール冊師の布陣をし […]