【多読ジム】類読・64編集技法の実験-千夜リレー伴読★1777夜『ロココからキュビズムへ』

2021/07/25(日)17:07
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共鳴するアナロジー

 

 オリンピック開会式当日。聖火リレーと【19共鳴】するように、リレー伴読の当番が回ってきた。リレー伴読は多読スタイルの【18競合】【17適合】の場である。最新千夜を借りて、多読ボードメンバーがそれぞれのスタイルをきそい、あわせ、かさねていく場なのだ。

 

 47[守]は、用法4に突入する頃合いだろうか。46[破]も含め、これから一気に卒門、突破へと加速していく時期だろう。それぞれの講座がもたらす【61周期】は、別の講座と【19共鳴】し、イシス編集学校に独自の【62曲節】をもたらす。それこそ、イシス編集学校の【49生態】となり、スタイルとなっていく。

 

 最新千夜は『ロココからキュビズム』。ロココを起点に、ロマン主義や印象派、アールヌーヴォーなどを経由して、20世紀のキュビズムに至った「各種アートの相関関係」を追った風変わりな美術史である。そこにはスタイルを見抜くための、著者ハイファーのアナロジー(類似)という見方が躍如している。

 

 アナロジー。編集工学において超重要なキーワードである。[守]の講座から大切にされており、特に用法3は、アナロジカル・シンキングを鍛えるステージである。アナロジーの説明として、『インタースコア』p.90には、私が一部改編したがこうある。

 

 アナロジーは類推力、連想力、【21比喩】力によるものだと思われている。むろんそうした特徴に富んではいるけれど、それだけではない。俯瞰力、【14配置】力、想像力が働く。ハードアイよりソフトアイを駆使する。アナロジカル・シンキングは情報や知識を動的に把握する。そのソフトアイのまま、情報の【30相似】や類似に注意のカーソルを当てつつ、思考を連想的に進めていくことを重んじる。まさに「編集は連想である」なのだ。

 

 つまりハイファーは、編集工学的なアプローチでアートの歴史を読み解いたともいえる。「歴史社会がスタイリングされている」という仮説を持ち、豊富な実例をアナロジカルにつなげることによって説明できる語り部だったのである。


日本というスタイル

 

 本千夜の冒頭は、いつも以上に具体例が【11列挙】されていて、「これらはすべてスタイルである」と校長は言う。列挙の【12順番】も気になる。複式夢幻能とへたうま? 家系ラーメンとロココ風? ルーズソックスと印象派? 火焔土器とロードムービー? 隣同士に連なる言葉の対が、私に何かをアフォードしてくる。家系ラーメンとロココの相関関係はどこにあるのだろうか。私のルイジくんとソージくんがざわつく。

 

 スタイルは体制や思想や計算結果よりも、ずっと重要な社会・文化・表現をめぐる様相なのであると校長はいう。ならば、今私の目の前で繰り広げられているオリンピックの開会式は、今のこの世界のどんな様相を示しているのだろうか。若干、日本的なもののごった煮っぽく見えたが、それらのスタイル、日本という方法を【52統御】していく【63総合】的演出は、成功していたのだろうか。

 

※ここで長い余談

 開会式の個々のパフォーマンスは、とても楽しく観た。MISIAの国歌斉唱も、ピクトグラム50競技実演も、上原ひろみのジャズと海老蔵のコラボも。大坂なおみの聖火点火では涙ぐんだ。隈研吾さんの競技場の細部にいたる建築の技と流儀も堪能したし、花火やプロジェクションマッピングをはじめとした、様々なテクノロジーのアートへの混ざり具合も驚嘆した。

 一方で、オリンピックを陰で支える人々にも想いを馳せた。後輩の救急医は、通常のコロナ診療の合間を縫って、ボランティアで選手村の診療にもあたっている。一銭も出ないボランティアであり、かつコロナ流行が収まらぬ中、圧倒的な人材不足もあって、シフトを埋めるために丸一日の勤務に変わったりして、負担が増している。そんな中、不満も言わず、しっかり医療スタッフの責務を全うしようとする姿勢に頭が下がる。加えて、オリンピック開催に対する反対の声が巻き起こる中、自宅からユニフォームを着ていくことを言い渡され、心無い人に襲われる不安も抱えている。どうしてこういう状況に立たされているのかと、その理不尽さには言葉が出ない。

 色々な想いが錯綜する中、オリンピックが始まった。

 

 ちなみに、スタイルについては、編集工学においては「略図的原型」として、プロトタイプ、ステレオタイプ、アーキタイプの3つの要素に分けて捉える。アーキタイプ(【09原型】)が時代や学問分野を越えて、“知の地”を形成することは、編集稽古を経験すると多くのひとが納得するのではないだろうか。


例示・暗示・相似・類似

 

 校長が注目しているハイファーの方法論は、アナロジーに加え、もうひとつ特色がある。美術史や文学史や社会史だけではなく、そこに時代ごとのテクノロジー(技法の特色)をくわえながら、それぞれのスタイルの変遷としてほぼ同格に織り合わせて語る方法である。編集工学的に言い替えるならば、テクノロジーを「地」にし、「図」としてのアートを語り、またその逆を試しながらかわるがわる視点を変えて歴史を読むという方法である。バロック的な視点で、バロック的な事象を切り取ったと言っても良い。

 

 その【28例示】は、千夜をご自身で参照いただきたいが、ガリレオの望遠鏡とフックの顕微鏡を地に、ルーベンスとブリューゲルの絵画を語ることが挙げられる。つねに中心を二つ持ち、楕円構造をなす情報同士をループ状に重ねて語ることで、フーガのように歴史を読むわけである。先ほど登場したアナロジーの例示としては、ピクチャレスクの言及の仕方がある。サイファーは、ピクチャレスクを「【29暗示】の技法」として捉える。スタイルの一部にアナロジーが用いられたのではなく、アナロジーそのものがスタイルの核心となったのである。サイファーの方法と校長の編集工学がここでも重なる。

 

 さらに、ロココから端を発し、派生していった19世紀の美術にあった不満、文化的遅延を打破するところに登場したのがキュビズムであると説くのがサイファー松岡である。三次元空間の表現方法に限界を迎えたところで、キュビズムはその三次元に縛られた空間表現を破壊していくわけだが、そこにはサイエンスやそれに基づくテクノロジーの先行があったわけである。時空連続体幾何学や量子定数や波動関数や相対性理論は、いずれも見方の転回による理論である。


コンパイルからエディットへ


 リベラル・アーツが昨今、見直されているが、まさにサイファーの方法論は、そのお手本である。編集工学は、あらゆる知を【01収集】【02選択】し、その方法論のみを【08凝縮】したものである。それらは、【03分類】【04流派】【05系統】立てられたのち、64編集技法として概念化されている。「コンパイルからエディット」へが基本なのだ。

 

 この遊刊エディストも、あらゆるスタイルの表象が飛び交う場としてさらに豊かになっていけばいいと思う。編集学校の動向をその都度、【55場面】として切り出し、【56劇化】し、【51報道】する場であり、編集工学をベースに世の中のあるゆる事象を【27引用】し、そこに【26注釈】を付加したり【46測度】を設定し、【50焦点】化することを試みる場でもある。

 

 方法に溢れる場で遊びたい。
 多読ジムは今、ブッククエストの稽古真っ盛り。一冊に3冊をつなげがら、本棚編集へ向かう「類読」の方法に向かっています。

 

 またお会いしましょう!

 

 オリンピックに出場する選手たちが力を出し切りますように。そして、オリンピック2020東京大会のスローガンである、「United by Emotion」が本当の意味で達成する日が来ますように。


  • 小倉加奈子

    編集的先達:ブライアン・グリーン。病理医で、妻で、二児の母で、天然”じゅんちゃん”の娘、そしてイシス編集学校「析匠」。仕事も生活もイシスもすべて重ねて超加速する編集アスリート。『おしゃべり病理医』シリーズ本の執筆から経産省STEAMライブラリー教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab」開発し、順天堂大学内に「MEdit Lab 順天堂大学STEAM教育研究会」http://meditlab.jpを発足。野望は、編集工学パンデミック。