自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
うつらうつらしていると、何かが聞こえてきた。あたたかな音。ああ、雨だ。長男は小さな頃、「雨の音をききながらねるのがすき」と言って丸くなっていた。その姿に、幼かった彼はお腹の中にいることを思い出しているのかなと、愛おしく感じたことを思い出す。
雨と私の間にある膜のようなものが、音を通して感じられる。音を頼りにあちら側に思いを馳せる。雨音はそんな自分の外側と内側にある存在を、確認させてくれるものなのかもしれない。知覚が私の中の記憶を刺激する。雨音は文字通りの雨音ではなかった。
◎AI探花<01 コップ篇> 〜始まりはいつも
7月6日、43[花]は8週間の演習を終了した。息をつくのも束の間、道場とは別の一座が集うラウンジ[編集術ラボ43]では、生成AIと編集稽古をめぐる問いと交わしあいが始まる。
7月8日早朝、錬成師範の角山祥道が、ISIS編集学校では珍しい正解のある問いを探花として出題した。
Q:【編集稽古001番:コップは何に使える?】のA・B・C3つの回答の中に、生成AIの回答がある。それはどれか理由と共に答えよ。
角山の入伝生をくすぐる絶妙な応接で作られる場に、アフォードされた者も多かっただろう。わずか2日で9割に及ぶ入伝生が回答する。客人(マレビト)錬成師範の岡本悟も参戦し、入伝生の回答にメタに眺めた評価を加えた。
入伝生は、A・B・C3つの回答を比べ、頻出回答、回答順、回答数、語法、語尾、コピー疑惑、どこで学んだかなどに注目し、編集稽古の用法3「しくむ/みたてる」を切り口にすれば、回答集めのルールを、用法4「きめる/つたえる」では、表現の違和感、情感の有無、経験・なつかしさの有無などから、どの回答がAIによるものなのかをアブダクションした。その際に、手持ちのAIに回答させたり、判断させたり、指南させたりといった実験も行う。入伝生はまるでシャーロックホームズのように「問」と向き合った。
◎AI探花<02 そもそも篇> 〜問いが問いを生む
<01 コップ篇>での解は、全てAIによる回答だった。その中で話題に上がった「AIっぽさ」「人間らしさ」とは何なのか。解像度を上げるための次なる探花が投げられた。
Q:そもそも、AIと人の違いって何?
ファーストペンギンN.Cのミメロギア「寝不足の人間・つゆ知らずのAI」で軽快にスタートを切る。続いて「AIは〜」というフォーマットで人との違いを列挙する岡本の回答をきっかけに、空文字アワーならぬ【番外】AIアワーが始まった。編集の型は思考を加速させる。勢いよく伸びるスレッドに、岡本と角山が「返」で問いを重ねると、スレッドはうねるような姿を出現させた。
▲AI探花<02 そもそも篇>ラウンジのスレッド
O.Kは、人は「問・感・応・答・返」すべてに対応できるが、(現状の)AIは人の「問・感」に対して「応・答・返」していると仮定し、ならば「問」はどこから発生するかに注目した。そして、我が子が言葉を使い始めた時に、身近にあるものを「見て」「聞いて」「触って」「感じて」、溢れ出すように「これな〜に」と問うていたことを思い出し新たな問いを生む。
AIにはない「身体性」のようなものが、「問」を発するには重要なのではないか?(O.K)
O.Kの問いに対し「記号設置問題」が重ねられれば、錬成師範の村井宏志はソシュールのシニフィアンとシニフィエでAIが蓄積しているシーニュ(記号)を解析する。人は「犬」という記号からどんな意味単位のネットワークが反応し、どんな濃淡でイメージが浮かぶかは、人それぞれ違う。このことは、それぞれのエディティング・モデルの違いである。ならばエディティング・モデルの交換とは? 指南とは?
◎AI探花<03 これから篇> 〜儚さを愛する
進化するAIを前に、かといって「それだけで師範代のかわりとなりうるのだろうか」と投じるI.Mは「だからこそ、五感と3A(アフォーダンス・アナロジー・アブダクション)は明け渡してはいけない」と語尾を強めた。
ならば、これからを対話しよう。錬成師範の角山によって3つ目の探花が場に投じられた。
Q:AIは指南ができるのだろうか? 「できる/できない」だけでなく、人にしかできない指南とは?
H.Hは、AIに指南はできるが色のない淡白な指南になると見極め、AIの指南した回答と同じ回答を指南した。H.Hの「感」たっぷりの指南に触発されたN.Yは、正しさからは生まれ得ない、「誤」から生まれる「儚さ」を愛していきたい、それが人にしかできない指南だと言いきる。その宣言に筆者のアナロジーは、生命の原始へと向かった。
入伝生は8週間の演習後、満身創痍な身体で43[花]の仲間と共に生成AIと編集稽古をめぐる問いを交わし合った。傷口に沁みる対話はあっただろうか。それぞれの日常と道場で新たに始まった『少年の憂鬱』の共読も同時に存在していた。ラボでのAI探花は、めまいのするような2025年の夏の日と共に記憶の中へ刻まれる。
松岡正剛校長はオブジェマガジン『遊』を立ち上げた頃、憧れの杉浦康平さんに学ぼうと訪ねた。その時、初対面だった杉浦さんに次のように言われる。(33[花]入伝式 校長講義「型と稽古」より)
そこに犬(杉浦さんの飼い犬レア)がいることと、ここに僕がいることは同時なんだよ。僕は僕であってあそこにいる犬との関係の中にいるんだよ。
校長が杉浦さんの言葉を録音しようとすると、さらにこう重ねられる。
再生するときは、全部を聴きなさい。冷房の音もあるよ。そういうものが全部あってジョン・ケージになって音楽になったんだ。バッハの時からチェンバロの時からそういうことと戦っているんだ。
探花は関係の中でひらかれていく。
文・アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)
【第43期[ISIS花伝所]関連記事】
●43[花]習いながら私から出る-花伝所が見た「あやかり編集力」-(179回伝習座)
●『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS ~43[花]SPECIAL~
●43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
●43[花]編集術ラボ◎AI探花〈A面〉――関係の中でひらく
大濱朋子
編集的先達:パウル・クレー。ゴッホに憧れ南の沖縄へ。特別支援学校、工業高校、小中併置校など5つの異校種を渡り歩いた石垣島の美術教師。ZOOMでは、いつも車の中か黒板の前で現れる。離島の風が似合う白墨&鉛筆アーティスト。
たどたどと揺れる火は、点ずる先を探していたのだろうか。内外に吹く風にかき消されぬよう、焚べられる薪を頼りに、今こそ燃えよと寄り合い、やがて気焔を上げる。 2日間のトレーニングキャンプを締めくくるのは、花伝所 […]
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天空に突如生まれる割れ目。そこから、自分のきているTシャツをひっくり返しながら脱ぐように、ジョージ・ガモフのトポロジーの発想で人体を裏返すように、44[花]ラウンジ上に新たな「場」が現れた。[しをり座]と[芭蕉庵]だ。そ […]
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コメント
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2026-01-13
自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)
2026-01-12
比べてみれば堂々たる勇姿。愛媛県八幡浜産「富士柿」は、サイズも日本一だ。手のひらにたっぷり乗る重量級の富士柿は、さっぱりした甘味にとろっとした食感。白身魚と合わせてカルパッチョにすると格別に美味。見方を変えれば世界は無限だ。