【田中優子の学長通信】No.16 AIDA

2026/03/01(日)08:00 img
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 イシス編集学校の学長は、松岡正剛校長がそうであったように、学校内の学長の仕事のほかにも、色々なことをしているのですよ。例えば、イシスの方法を一般の講演や対談や書籍などで外に知らせることは、もっとも大事な活動の一つです。「酒上夕書斎」などで「本」の紹介をすることも、学校を活気づける活動です。

 

 そして編集工学研究所の中では、企業人たちの学びの場であるHyper-Editing Platform [AIDA]の「ボードメンバー」もつとめています。

 [AIDA]は毎年テーマを決めて10月から次の年の3月にかけて開催されますが、開催の合間にも受講者は「お題」が出て文章を書き、指南を受け、賞の授与があったりと、かなり忙しいです。その中で、会社や社会では気づかないことに、気づいていくのです。

 

 それぞれの年のテーマは、世界と日本を貫く壮大なもので、3月に終了する今年のテーマは「座と興のAIDA」でした。「座」も「興」も日本の方法です。編集工学研究所とりわけ[AIDA]の特色は、「グローバリズム」と称してアメリカ方式の発想を鍛える、というものではありません。「日本の精神」と称して、滝にあたって心身を鍛えるのでもありません。日本の方法を知り、今後の企業や仕事にどう活かすかを、本気で考えることを目標にしています。

 

 プログラムの中でメンバーがとりわけ衝撃を受けるのは、合宿です。今年は1月に飛騨高山に行き、左官職人の挾土秀平さんに会いました。いえ、会っただけではありません。左官体験を含むワークショップや、作品を見ながらのお話しからは、ふだんの生活では決して得ることのできない、「日本の自然と人間の関係」の深い認識を得ることができました。

 

 挾土さんは松岡正剛校長と親しい方でしたので、私も東京でお目にかかったことがあります。著書もたくさんあり、テレビにも出ていました。しかし高山でその仕事に直面した時に初めて、その仕事がこの世界で占める大きな意味に気づきました。

 

 合宿で得られるものは、その「場所」と仕事の深い関係です。イシス編集学校で師範代をした時にも、学衆さんの中に「場所」との関わりの中で充実した仕事をしておられる方がいて、その方の振り返りから、私は多くを学びました。

 

 私と松岡校長の「問答」ではたびたび、日本のある「おおもと」という言葉が出てきます。それが何を指すかは、校長も私も述べていません。一つに絞って言葉にした途端、それは政治的に利用されるからです。日本文化の中でも、それは「擬」「見立て」によってしか表現されていません。しかし私は、高山での挾土秀平さんの仕事から、その一端を感じ取ることができました。

 

 つまりある「おおもと」は、権威や力のことではなく、場所、土地、自然に関係するものなのです。現代日本の問題は、それを切ってしまったことです。

 

 

田中優子の学長通信

 No.16 AIDA(2026/03/01)

 No.15 にぎやかイシス対談(2026/02/01)

 No.14 新年明けまして・・・(2026/01/01)

 No.13 『九』の出現(2025/12/01)

 No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告(2025/11/01)

 No.11 読むことと書くこと(2025/10/01)

 No.10 指南を終えて(2025/09/01)

 No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて(2025/08/12)

 No.08 稽古とは(2025/08/01)

 No.07 問→感→応→答→返・その2(2025/07/01)

 No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)

 No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)

 No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)

 No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)

 No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)

 No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)

 

アイキャッチデザイン:穂積晴明

写真:後藤由加里

  • 田中優子

    イシス編集学校学長
    法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。

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