ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
京都市伏見区の長尾天満宮で地元の子ども達がたくさんの石段を駆け上がるイベントが3月8日にあったようですね。翌日9日にはイシス編集学校の[破]応用コースおける学びのダッシュを終えた修了を寿ぐお祭り・感門之盟が平安神宮近くの「京都モダンテラス」で開催されました。これまでの都内開催からダイナミックにジャンプして地方開催をするのは初めての試みとなります。
教室を先導した師範代(先生役)への労いの言葉が送られる突破式と先達文庫の授与の後、「橋がかりトーク」が行われました。橋は通り道の大事な一部分であり、この世(here)とあの世(there)の結節点でもありました。今回、[破]での稽古模様と、その先の情報が行き交う対話のシーンを一部紹介いたします。
[破]では、書物と著者(書き手)と自分(読み手)を三位一体として連携しながら読前(読書の前段階)では書けそうにないモノを稽古を通じて創文する機会(「セイゴオ知文術」と呼びます)があります。そして、物語マザーの1つである英雄伝説の構造を使いながら映画のワールドモデルやキャラクターを翻案して物語を執筆する機会もあります。それらはアリスとテレス大賞として講座の会期中に受賞発表があります。「橋がかりトーク」のコーナー1では知文大賞と物語大賞のお2人に対する師範・小林奈緒からのインタビューが行われました。
知文アリスとテレス大賞はアガサ・フィーカ教室の前嶋敦子さんの『「苦海」に生かされて』でした。まず師範・吉田麻子が作品を読み上げます。これは物語講座での修了の場(績了式と呼ばれます)で受賞作品の一部を師範が朗読するシーンに肖ったモノです。前嶋さんが読んだ課題本は学長・田中優子が選んだ『苦海浄土』でした。知文の際に石牟礼道子と同じ眼差しを持って、水俣病の患者さん一人一人と向き合いながら創文されたのです。
『苦海浄土』の作品名は「苦海」と「浄土」の一種合成となっていますが、多くの読み手が「苦海」の方に向かいがちです。前嶋さんは「荘厳(しょうごん)」という智慧や福徳など善美をもって、身やその住む国土を飾る言葉をキーワードとして置くことで、「浄土」側にもフォーカスを当てていたのです。課題本を読む前と比べて、前嶋さんは読後に「清められた」という感があり、石牟礼道子に興味を持ちました。彼女について徹底的に調べた結果、「荘厳」に出会えたのです。コンパイルとエディットの両翼がそろったことで、書けそうになかった創文を行い、アリスとテレス大賞としての評価が授与されました。
物語編集術のアリスとテレス大賞はイメージ・チューナー教室の小笠原優美さんでした。師範・得原藍が作品『オモカゲ』の一部を朗読し、読み終えた直後の会場は静寂に包まれていました。創文のベースとなった映画は未知の星にいた謎の生命体を回収した宇宙船内での闘争を描く『エイリアン』です。宇宙船という閉鎖的な属性に注目し、第二次世界大戦の原爆投下後の広島へとワールドモデルへと翻案されました。
気持ち悪いモノが本来嫌いな小笠原さんは、映画での圧倒的な恐怖と力に対して核兵器へ連想を繋げました。さらに、数年前のコロナウイルス蔓延時における閉塞感のイメージサークルの広がりとともに、原爆投下後の広島に住んでいた小笠原さんの父方の祖母の体験談へとたどり着いたようです。一度もお会いする機会の無かった祖母の属性をキャラクターの翻案時に組み込みつつ、シーンの中で主人公が感情を発露していました。稽古を通じて心身の臨界点を超えて、映画を観る前では想定していなかった作品を編むことができたようですね。
小笠原さんの作品はコチラの記事で全文が公開されています。
「橋がかりトーク」ではその後、コーナー2の京都モダン建築のトークを挟み、コーナー3では、番匠・白川雅敏と師範・桂大介による1508夜『世阿弥の稽古哲学』の朗読から、突破の先にある花伝所の紹介がありました。花伝所は室町時代に生きた能役者・世阿弥とイシス編集学校の校長・松岡正剛の見方に肖りつつ、型稽古を通じた教室における師範代(先生役)と学衆(生徒役)のエディティングモデルの交換の方法哲学をトコトン身体化できる場になります。
師範の桂から師範代・菅原誠一に対して師範代登板後の1年前の花伝所時代に対する振り返りの「問い」がありました。学衆から師範代へと生まれ変わる変化の時間密度の喩えとして、鳥山明の漫画『ドラゴンボール』に登場する1日閉じこもれば1年間修業可能な「精神と時の部屋」を挙げています。きっと花伝所の体験による編集工学の理解や指南力の高まりを感じ取れたのでしょう。その後、菅原は[守]基本コースの師範代に登板し、教室名「なんでも軽トラ教室」に登場する軽トラが菅原にとっての必殺技になったようです。
司会の西村慧も師範代登板時の教室名を通じてアフロという必殺技を身に着けたと語っていました。
突破の先にある道として花伝所に加えて、師範の小林が触れていた[遊]コースの物語講座があります。3月29日に行われる物語講座の感門之盟はISIS FESTAとの併催ということで、リアル参加だけでなくオンライン参加も可能です。興味のあるかたはコチラをクリックしてください。
<参考文献>
京都新聞/2025年3月9日(日)朝刊/22面
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
<速報>【44[花]敢談儀】読書の裏側には地獄が潜む!?(オツ千ライブ「物実像傳」)
昨日レポートした敢談儀スタート時の花伝所長・田中晶子によるメッセージの後、『読書の裏側』の図解共読がありました。前半では師範と放伝生の対話があり、後半では千夜坊主の吉村堅樹と千冊小僧の穂積晴明による「おっかけ千夜千冊フ […]
<速報>【44[花]敢談儀】書物と自分を切り離さない(田中花伝所長メッセージ)
大寒に突入して朝の空気が冴えた日々が続く1月24日、豪徳寺駅近くの編集工学研究所で、編集コーチ養成コース・花伝所の最終関門「敢談儀(かんだんぎ)」が行われました。スタートにあたって花伝所を取りまとめる所長・田中晶子から […]
師走として2025年終盤へと加速する12月13日(土)、編集工学研究所の本楼で蒐譚場が開催されていました。物語講座のラストプログラム「編伝1910」のレクチャー&ワークが行われましたね。担当は師範の森井一徳と高橋陽一で […]
<速報>物語のシーン描出に「目のカメラ」を活用しよう/55[破]破天講
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2026-02-10
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2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。