自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
先月は『不確かな時代の「編集稽古」入門』の刊行予告をしました。無事刊行されました。刊行後にもっと詳しく書く、と約束したのですが、その前にぜひ書いておきたい出来事が起こってしまったので、今月はそちらです。
その出来事とは、イシス編集学校・九州支部「九天玄氣組」が20年の成果を形にした雑誌『九』の刊行です。そして、それを記念する福岡での対談です。凄かった!
『九』は「九州の千夜千冊」の意味ですが、その装丁は『遊』そのもので、表紙の『遊』の場所に『九』が鎮座しています。『遊』の時にはまだ千夜千冊が書かれていませんでしたから、初めて『遊』と千夜千冊が合体したわけです。なんと帰りにはもっと『遊』に酷似した(さらに『遊』に肖った)『龍』を下さいました。11月2日は、「肖る」「似せる」ことの迫力が、荒波のようにどどっと立ち上がった日でした。
『九』は、九州にちなむ1000冊の本を見事に集め掲載しました。「ちなむ」とは言っても、九州に関係ない本が松岡正剛校長との関わりや、メンバーの「想い」で選ばれている一方、九州に関係あるよ、と私が紹介した本は載っていませんでしたから(笑)、あくまでも「九天玄氣組のお気に入り本の本」なのです。
福岡に行く前の「酒上夕書斎」では、冒頭に「九天玄氣組」の催し物を予告し、九州にちなむ『苦海浄土』1、2、3部について語りました。そして福岡の会場では、石風社の福元満治さんと30年ぶりにお目にかかり、対談したのです。心の奥深くに染み入る、忘れられない対談になりました。
福元さんは、亡くなった中村哲さんとペシャワール会を、ずっとアフガニスタンの現場と日本で支えた方です。中村哲さんが江戸時代の工法で大河クナール川から運河を何本も引き広大な耕作地を作り上げた現場にも、福元さんは立ち会っておられました。そしてその実現のために事務局長として多くの寄付を集めたのです。
それだけではありません。学生時代には石牟礼道子さん、渡辺京二さんとともに厚生省での抗議活動、大阪のチッソ株主総会、チッソ東京本社での籠城を体験した方なのです。これらの経緯は『苦海浄土』の2部と3部に詳しく書かれていますが、私は本を読んだだけです。福元さんは「そこにいた」のです。中村哲のペシャワール会と石牟礼道子の水俣闘争という、この日本の偉大な、ノーベル平和賞とノーベル文学賞に真に値する二人の方々の活動の両方に深く関わった人は、福元さんしかいません。こういう方がおられる九州は、やっぱりすごい。
『遊』の肖りの大洪水と、そして私の生涯の記憶に残る対談を企画してくださった九天玄氣組の皆さんに、心から感謝します。
田中優子の学長通信
No.13 『九』の出現(2025/12/01)
No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告(2025/11/01)
No.11 読むことと書くこと(2025/10/01)
No.10 指南を終えて(2025/09/01)
No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて(2025/08/12)
No.08 稽古とは(2025/08/01)
No.07 問→感→応→答→返・その2(2025/07/01)
No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)
No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
2026年が明けました。そして、学長通信が2年目に入りました。この新年はおめでたいのか、どうなのか、という微妙に戦雲が垂れ込める新年です。 12月に鈴木健さんと対談して、本当に良かった、と思います。この、エディテ […]
【田中優子の学長通信】No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告
この表題は、もうじき刊行される本の題名です。この本には、25名もの「もと学衆さん」や師範代経験者たちが登場します。それだけの人たちに協力していただいてできた本です。もちろん、イシス編集学校のスタッフたちにも読んでもらい […]
今年の8月2日、調布の桐朋小学校の校舎で「全国作文教育研究大会」のための講演をおこないました。イシス編集学校のパンフレットも配布し、当日はスタッフも来てくれました。 演題は「書くこと読むことの自由を妨げ […]
[守][破][離][花伝所]を終え、その間に[風韻講座]や[多読ジム]や[物語講座]を経験しながら、この春夏はついに、師範代になりました。 指南とは何か、指導や教育や添削とどこが違うかは、[花伝所]で身 […]
【田中優子の学長通信】No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて
8月12日の一周忌が、もうやってきました。 ついこの間まで、ブビンガ製長机の一番奥に座っていらした。その定位置に、まだまなざしが動いてしまいます。書斎にも、空気が濃厚に残っています。本楼の入り口にしつらえられた壇でお […]
コメント
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2026-01-13
自らの体内から這い出したコマユバチの幼虫たちが作った繭の塊を抱きしめるシャクトリムシ。科学者は「ゾンビ化されて繭を守るよう操作されている」と解釈するけれど、これこそ「稜威」の極北の姿ではないだろうか。
2026-01-12
午年には馬の写真集を。根室半島の沖合に浮かぶ上陸禁止の無人島には馬だけが生息している。島での役割を終え、段階的に頭数を減らし、やがて絶えることが決定づけられている島の馬を15年にわたり撮り続けてきた美しく静かな一冊。
岡田敦『ユルリ島の馬』(青幻舎)
2026-01-12
比べてみれば堂々たる勇姿。愛媛県八幡浜産「富士柿」は、サイズも日本一だ。手のひらにたっぷり乗る重量級の富士柿は、さっぱりした甘味にとろっとした食感。白身魚と合わせてカルパッチョにすると格別に美味。見方を変えれば世界は無限だ。