ハンノキの葉のうえで、総身を白い菌に侵されて命を終えていたキハダケンモンの幼虫。見なかったことにしてしまいたくなるこんな存在も、アングルを変えてレンズを向けてみると、メルヘン世界の住人に様変わりする。
世界には境界がある。「こちら」と「向こう」を分けている境界線だ。
向こう側を覗いてみたい、知りたいという抑えきれない好奇心と編集という方法が2つの世界を繋ぐための“橋”を生み出す。どんな世界が広がっているのだろうか、未知への期待と少しの恐怖が渦巻きながら、私たちはいくつもの“橋”を架けることに挑み続ける。
まだ冷たい風が吹く3月9日。感門之盟は別院のコンセプト「東海道53次」のようにリアルでも東京「本楼」を飛び出し、京都市左京区の「京都モダンテラス」で行われた。まさに“出遊する感門”である。平安神宮に隣接するモダニズム建築は、一歩室内に入ると冷たい風が止み、柔らかな陽射しが降りそそぐ。「Bridge Over the Bridge」と名付けられた感門は、橋をキーワードに場所、時代、そして人へと橋を架けることを様々なアプローチでコンテンツにしていく。この式自体がまさに編集の実践の場だった。
美味しい料理とアルコールを口にし歓談する参加者の様子は、いつもの本楼での感門之盟とは一味違う雰囲気を作り出していた。慣れた本楼での開催ではなく、京都への出遊に踏み切った理由を知りたくなった私は、[破]の原田淳子学匠にこっそりと尋ねてみた。
▲登壇者に耳を傾ける参加者たち
「いつも東京に来てくれる関西に住む学生の師範代が、“一度でもいいから関西でやってほしい”とこぼしていたんですね。この言葉に応えたくなりました。それに今なら面影となった松岡校長がどこまでもついてきてれる。だからできると思いました」
原田学匠はいつも通り穏やかに、でもいつもより熱く語ってくれた。
▲本棚の上の松岡校長の本と写真
当日は福田容子評匠や奇内花伝組といった関西にゆかりのあるイシス編集学校のOB、OGが準備のためにたくさん集まった。橋を渡る決断の裏には、イシスが架け続けた橋の存在があったのだ。
53[守]に師範代として登板した私は、53[破]に進んだ同期師範代、そして自分の教室から進破した学衆に直接お稽古の話を直接聞きいてみたいと、今回、京都を訪れた。53[破]への橋を渡った師範代達は指南の難しさや葛藤と師範代だけが味わえる格別の楽しさについて語ってくれた。「師範代」と呼び掛けてくれたのは私の[守]の教室の学衆の2人だ。「難しい」、「大変だった」と橋を渡った未知の世界での景色を振り返りながら、溢れる笑顔で話してくれた。イシス編集学校には[守]と[破]、そして[花伝所]へと繋がる橋がある。「向こう」側での経験は、自分の見方や考え方をぐっと広げていく。
「編集という刀を使って、橋を架け続けてください」
原田学匠の言葉は、53[破]師範代という目の前に架かる橋に気づきながら、渡ることをやめてしまった私にぐっと刺さった。この痛みを感じたのはきっと私だけではないだろう。仕事で、日常で、あらゆる場面で橋を架けることを諦めている人にも、深く刺さったのではないか。でも私たちはこれが痛みだけで終わらないことも知っている。この「痛み」も、編集という方法を使うことで、もう一度橋を架けることに挑戦する「勇気」へと変えることができるのだから。
文/山口奈那
アイキャッチ/大濱朋子
文中写真/中村裕美
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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2026-02-10
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2026-02-05
誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
2026-02-03
鋸鍬形、犀兜、鰹象虫、乳母玉虫、碁石蜆、姫蛇の目、漣雀、星枯葉、舞妓虎蛾、雛鯱、韋駄天茶立、鶏冠軍配、鶉亀虫。見立ては、得体の知れないものたちを、手近に引き寄せたり、風雅に遊ばせることの糸口にもなる。