編集学校の方法を子どもたちのために外へつなぐ。
「イドバタイムズ」は子どもフィールドからイシスの方法を発信するメディアです。
学齢期の子を持つ親にとってゲームは常に悩みと共にある。子どもとゲームを編集的につなぐ方法を掴むことは、編集かあさん&とうさんの熱願だ。
昨秋、子どもフィールドで実施したアンケートでは、「編集ゲームづくりをやってみたい」と答えた人が60%に上った。「人気のゲームを編集用語でリバースエンジニアリングすることが、子ども編集学校の新しい編集的ゲームをつくる第一歩になるのでは」という野村英司の着想がきっかけとなり、2月、「子ども×編集×ゲーム」Eトークを開催した。呼びかけに応じた11名が好きなゲームを持ち寄り、そのおもしろさを編集用語で語り直し、実際に「人狼」に興じた。
●いまをKATARU
顔合わせからゲーム仕立てとした。カードゲーム『KATARUTA』を使って、まず編集という方法の起点に立つ。ルールは、みなが名乗るなり、ゲームマスター(佐々木千佳・学林局局長)が引いたカードに書かれた「とはいえ」「つまりは」で言を継いで、自身の関心を語っていく。
語りをゲームにする「KATARUTA」
トップバッターは神尾美由紀。今回の司会進行で花伝所錬成師範。《とはいえ》学衆側の学ぶ気持ちを忘れずにやっていきたい、と軽快にクリア。48守速習コース師範代の西村彗は、《いつもは》会社員だが、休日に学習塾で子どもたちと遊んでいる。前日には最後の学衆が卒門したばかり!と破顔一笑。放課後教室で見守りを続けている馬場朋子は、《思えば》編集学校への入門は20年前。編集稽古から遠ざかっていたが、子どもフィールドで再び縁を繋いだ――こんな具合に、戸惑いつつもカードがめくられると、みな方法の眼を起動して、偶然をわがものにしていった。これは編集稽古のたまものでもあろう。編集学校には、言葉ひとつを入れ替えて句意をガラリと変えたり、2人の作家の文章を混ぜて創文する稽古がある。すべてを情報とみて、編集可能と考えるスイッチが入るのかもしれない。終わってみると、『KATARUTA』は自己紹介を定番文脈から解放するツールになっていた。
●未来への型り直し
次は、好きなゲームを編集用語でリバースエンジニアリングする「型り直し」コーナー。方法を主語にして交わしていく。
トランプの「大富豪・大貧民」を挙げたのは堆奈緒。カードが札束に【見立て】られる、大富豪と大貧民の間がグラデーションになっていて勝負に白黒つかない、【ルール】が【IF-THEN】で分かれて【手続き】が多彩、等々。筆者もかつて熱中した「大富豪」だが、なんと方法に富んだゲームだったのかと見直した。堆が小学生の時は、クラスで流行しすぎて学校にトランプを持ってくるのが禁止になったという。編集力のあるゲームは、外側のルールまで動かしていく。司会の神尾が、大富豪から大貧民まで【ロール】がグラデーションになっているところは、ゲームの終わり方のパターンを考えるヒントになる、とコメント。編集用語でゲームを因数分解することでゲーム再編集のとっかかりがみえてきた気がした。
スクールカウンセラーの原田祥子にとって、「ジェンガ」は【BPT(ベース・プロフィール・ターゲット)】。ジェンガの【ターゲット】は「勝つ」ことだが、その過程で【段取り】が阻まれたりして【地と図】が変わる。▼浦澤美穂は「謎解き脱出ゲーム」をリバースエンジニアリング。街歩きと組み合わせた推理ゲームは、【注意のカーソル】や【フィルター】からこぼれるものの存在を気づかせる。▼将棋クラブの部長だった野村は、下級生のために将棋のルールを簡略化した。当時から学びを遊びにする編集っ子だった。将棋盤で戦艦ゲームもした。将棋の【アーキタイプ】は「戦争」だ。神尾は、将棋盤の方眼という【フォーマット】の可能性に目をつけた。▼馬場は「すごろく」のマスが物語編集の【トリガー】に似ていることを見出した。▼西村は「唯我独尊ゲーム」から【ないもの探し】【やわらかいダイヤモンド】【ミメロギア】+瞬発力、と型を連打。▼ビリヤード歴20年の北村彰規は、【道具(ツール)】の進化と【ルール】の変化が同期することを指摘。ビリヤードで複数の球を動かすのは【プランニング】であり、読み次第では【物語編集】となる。
「型り直し」によって、それぞれのゲームに埋めこまれた「型」が可視化され、新しいゲームを作る素材が集まりだした。
「話を聞いて、面白いゲームは時間をかけて上達すると感じた」と松井路代が言った。「私は良きトレーニングの場が持ててないと気づいた」。ゲームが苦手で全然分からないのに今回声を上げたのは、それでもゲームが気になるから、と。ところで、冒頭であげた親の悩みは、子どもがゲームに溺れることへの不安が発火点だ。ゲームへの苦手感覚や不安は、ゲームをやる側、消費者視点と言える。見方を変えれば、変化の激しい現代には、世界をつくる力こそ求められる。ゲームに仕掛けられた手続きを体得して方法の引き出しを豊かにしたり、ゲームをつくる側になることは、子どもフィールドのターゲットとしたいところだ。
●鬼と型のあいだに
型り直しに話を戻そう。小学生の息子は大のゲーム好きなのに自身はゲームが苦手な筆者・吉野は、鬼と混ざらないで済むという理由から「だるまさんがころんだ」を選んだ。鬼の【ロール】設定に焦点を当てた。日本では鬼は敗者の役回りのため、みな鬼になりたがらない。一方、海外(英語圏)では鬼がゲームマスターとなるため、鬼になることが目的となっている。ロールの設定によって、鬼の受け入れ方が変わる。
イシスな人々は鬼に目がない。一同しばし鬼を語る。
―鬼って何でいつも少数なんでしょうね…。
―鬼は裏切り者のメタファー? 裏切者が入ると、ゲームが盛り上がる。
―英雄伝説の型なら、裏切り者は目的の察知でしょうかね。本来の敵の存在に気付くという。
―起承転結の「転」かな。
―裏切り者は、両方の秘密・ルールを知るので、ゲームマスター(神)に近づく存在として疎まれるのでは!?
鬼≒裏切り者は編集的には何になるのだろう。
さて、この日一番のチャレンジとなったのは、全員参加の人狼ゲームだった。推理ゲームであり、テーブルトークRPGである。ゲームマスターから本人だけに分かるように配役が割り振られ、誰が人狼かを当てる。通常、ゲームは敵味方が目に見える形になっていることが多いが、人狼ゲームでは見えない情報を明らかにしていくところに目的がある。編集的に言えば【アケフセ】が柱になっている。
2チームに分かれ、ゲームに心得のある神尾と浦澤がゲームマスターに立つ。初体験者が多く、ルールを確認し直しながら探り探りの戦いとなった。終了すると、「だますのは難しい」「嘘をつかないといけないのはストレス」「ロールが気恥ずかしい」等の正直な感想が漏れた。メンバーたちの優しさがにじみ出ると同時に、RPGへの抵抗感があることが浮かびあがった。
RPGはロールプレイという型をもってゲームの世界に入る。だましたり嘘をつくことへの抵抗感は、ロール(役割)は理解しているものの、プレイ(演じる)に壁があるのではないだろうか。ゲームへの没頭を妨げるものがロールとプレイのあいだに潜んでいるとしたら、この谷間を探ってみたい。それがゲームをつくる側になるための宝の地図になるかもしれない。そうしたら、子どもたちが“鬼になりたがるゲーム”も作れるのではないか。鬼を演じる幽玄なゲーム。そんなフラジャイルなゲームができるかと思うとワクワクする。
4月、子どもフィールドに「プランニングフィールド」が誕生する。春夏期のプランニングは「子ども×編集×ゲーム」に決まった。編集稽古を踏まえて、チームでゲームについて考え、編集し、新しいゲームを作ってみる。ゲームでの一座建立を目指したい。
子どもフィールド&プランニングフィールドはイシス体験者なら誰でも参加OKの“プランニング開放区”となっている。気になったら、こちら へアクセスを!
編集かあさん&とうさんをはじめ、私塾をひらいている人、学童や放課後教室の見守りをしている人など、子どもの学びに関心がある人たちが待っている。
文:吉野陽子
イドバタ瓦版組
「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。
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