この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

イシス編集学校に、編集工学研究所に、灘高生がやってきた!
灘高校では、各界の第一線で活躍する人々に生徒が直接会ってインタビューする「東京合宿」を2008年から実施している。このプログラムのインタビュイーロールを、2025年4月2日、編集工学研究所・代表取締役の安藤昭子、イシス編集学校・林頭の吉村堅樹がつとめた。場所は、世田谷区豪徳寺にあるブックサロンスペース「本楼」だ。
左:佐藤優『君たちが知っておくべきこと―未来のエリートとの対話―』(新潮社)
右:五木寛之『七〇歳年下の君たちへ―こころが挫けそうになった時に―』(新潮社)
東京合宿では、過去に作家の佐藤優氏や五木寛之氏らがゲスト参加し、書籍化もされている。
6万冊の書物に囲まれながら、前半は、安藤昭子、吉村堅樹が「編集工学とは何か?」を解説。灘高生たちは、頷きながら静かに耳を傾け、高速でペンを走らせた。生徒の中には、松岡正剛校長の熱狂的なファンや、イシス編集学校の学衆(基本コース[守]卒門、応用コース[破]受講予定)もいる。レクチャーでは「インタースコア」「アルス・コンビナトリア」「面影日本」など難解な編集工学用語が次々飛び出すも、彼らは臆することなく、好奇心と冒険心を強く掻き立てられた様子だった。
テーブル右奥でマイクを握るのが吉村堅樹。灘高生をあいだに挟み、反対サイドに安藤昭子が座る。記事冒頭のアイキャッチ写真では、安藤の語る姿を正面から捉える。
豪徳寺名物の「招き猫もなか」を食べながら短い休憩のあと、後半は灘高生によるインタビューを実施した。下記にその冒頭のワンシーンを紹介する。
灘高生:本を読んでいるときは「すごく理解できた」という実感があるのに、いざそれを説明しようとすると全然言葉が出てこなくなります。これはどうするといいんでしょうか。
吉村堅樹:つまり、「説明すること」と「理解すること」にはズレがあるということですよね。まさにこれこそが、編集工学です。
つまり、始まりがあって終わりがある。インプットがあって、アウトプットがある。その間で起こってるのが編集です。例えば、呼吸と排泄といった生理機能も編集と捉えます。
この時に「出発のレトリック」と「到着のレトリック」をまず考えるべきだと、よく校長の松岡は言っていました。出発というのは、最初に情報をINするとき、どういうふうにINをしていくといいか。どうすれば、知識と知識をつなげることができるか。どうすれば、想起しやすい状態におけるか。
そして、到着というのは伝える時のことですね。どうやって伝えると伝わりやすいかを考える。千夜千冊に1292夜『無名時代の私』という一夜があります。ここには映画監督の川島雄三が当時助監督の藤本義一にこんなことを教えたと書いてある。「考えていることは100だ。それを喋れば10だ。書けばそれが1になる。それに耐えきることだ」。そのくらい、アウトプットの方法によって違いが出るわけですね。
アウトプットを前提にすると、インプットもガラリと変わります。本を読むときも、「理解しよう」と思って読むとなかなか頭に入らない。けれど、記事を書こうとか、企画書を作ろうとか、ゲームにしようとか、アウトプットの方法が決まっていると、読みが速くなったり、深くなったりもします。
安藤昭子:そうですよね。想像力が働いていない状態で、いくら本を読んでも、たとえその時が分かったと思ったとしても、それは編集できる素材にはなりえないんですよね。松岡も「字面だけ追ってたら、そりゃ僕だって1秒たりとも読めないよ」とよく言っていました。
だから、本って、そこに書いてあることが大事なような気がするんだけれども、もちろんそれもとっても大事なんですが、そこをフックにして、むしろ自分の想像力がどれぐらい動くかということを、ずっとウオッチしながら読まないと、おそらく何冊読んでも「読めた」という感触は得られないかもしれません。
このほかにも「現代における仏教の可能性とは何か」「いま自分が生きている世界と日本の伝統文化を接続するためにはどうすればいいか」「”わかったつもり”になってしまう状態をどのように突破すればいいか」「AI時代において読書にはどのような可能性があるか」など、鋭い質問が連打された。
質問の内容から、灘高生の編集工学の対する本気の期待度がまざまざと伝わってくる。
もしかしたら、そう遠くない将来には、灘高で編集工学の授業が開催されたり、歴史の授業の教材に『情報の歴史』(編集工学研究所)が使われる日もやってくるかもしれない。
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:宮崎滔天
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
「脱編集」という方法 宇川直宏”番神”【ISIS co-missionハイライト】
2025年3月20日、ISIS co-missionミーティングが開催された。ISIS co-mission(2024年4月設立)はイシス編集学校のアドバイザリーボードであり、メンバーは田中優子学長(法政大学名誉教授、江 […]
【続報】多読スペシャル第6弾「杉浦康平を読む」3つの”チラ見せ”
募集開始(2025/5/13)のご案内を出すやいなや、「待ってました!」とばかりにたくさんの応募が寄せられた。と同時に、「どんなプログラムなのか」「もっと知りたい」というリクエストもぞくぞく届いている。 通常、<多読スペ […]
佐藤優,登壇決定!!!! 7/6公開講座◆イシス編集学校[守]特別講義
イシス編集学校の基本コース[守]特別講義に、元外務省主任分析官・作家の佐藤優さんが登壇する(講義は、誰でも参加可能な公開講義の形式で開催!)。 講義タイトルは佐藤さん自らが「編集工学2.0と歴史的現実──正剛イズムを […]
【6/20開催】鈴木寛、登壇!!! 東大生も学んだこれからの時代を読み通す方法【『情報の歴史21』を読む ISIS FESTA SP】
知の最前線で活躍するプロフェッショナルたちは、『情報の歴史21』をどう読んでいるのか?人類誕生から人工知能まで、人間観をゆさぶった認知革命の歴史を『情歴21』と共に駆け抜ける!ゲストは鈴木寛さんです! 「『 […]
多読スペシャル第6弾が「杉浦康平を読む」に決まった。 杉浦康平さんといえば、若かりし松岡正剛校長がぜひとも「入門したい」「師にしたい」と切望した人物だ。千夜千冊981夜『かたち誕生』では次のように語っている。 杉浦康平 […]
コメント
1~3件/3件
2025-06-10
この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。
2025-06-10
藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。
2025-06-06
音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。