〈突破者が書く!第1弾〉唐傘さして49[守]へいく【78感門】(中村裕美)

2022/03/27(日)12:00
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 本楼に校長の喝が飛んだ。そこにいたのは突破直後の学衆だ。第78回感門之盟の放伝式では、[破]を終えたばかりの3名の学衆が呼び出され、編集コーチ養成コースである花伝所への公開勧誘が行われた。[花]を終えると次は[守]の師範代への道がひらける。自分にその役が務まるか躊躇する学衆に、校長は言い放った。

「悩むな。選ばれたんだからやるんだよ」


今宵、選ばれた者が36[花]から49[守]へ放たれた。

 2021年6月。47[守]別院では、全教室参加のイベント、「番選ボードレール」(通称:番ボー)の講評があった。そしてその余韻に浸りながら、全教室の全回答と指南を見守る番匠達が対談を行っていた。

I番:極性アンバンドル教室の「パイセン」こと大塚信子さんもすごいんですよ。勧学会で、みんなの番ボー回答にコメント。見方が的確で、元気にするコメントなんですよね。

K番:これは将来の師範代候補かな。パイセン楽しみにしてますよ

 大塚信子は極性アンバンドル教室の学衆だ。45[守][破]を終え、再び[守]を受講しにやってきた。編集学校の先輩は、クラスメートに“パイセン”と呼ばれた。


 彼女の第2の師範代っぷりは、番ボーに始まったことではない。001番回答の冒頭から教室仲間の回答にコメントを返すと、師範代に共読感想を書く場を要求し、姿を見せない仲間に別院まで飛び出してエールを送った。やわらかい発想の回答や共読力、教室への気配りに、2回目の[守]とはいえ、サクラではないかと疑われた。


 番匠達は、47[守]学衆182名の中から、師範代候補として「大塚信子」という名をあげた。極性アンバンドル教室の汁講には、花伝所・所長田中が現れ、スカウトを狙っていた。彼女は選ばれていたのだ。

 今宵、遅くは雨だった。

 雨降りお月さん 雲の蔭
 お嫁にゆくときゃ 誰とゆく
 ひとりで傘(からかさ) さしてゆく
 傘(からかさ)ないときゃ 誰とゆく
 シャラシャラ シャンシャン 鈴つけた
 お馬にゆられて ぬれてゆく

「極性アンバンドル教室」のパイセンは、36[花]の門をたたき、「わかくさ道場」を駆け抜け、「唐傘さしていく教室」の師範代へロールチェンジを果たした。そして『雨降りお月さん』を口ずさみ、幼心をしたためて、三度目の[守]へ向かった。

 

 

記事:中村裕美(47[破]泉カミーノ教室) 

編集:師範代 山口イズミ、師範 新井陽大(47[破]泉カミーノ教室)


 

▼番記者梅澤コメント

記者・中村さんは、47[守]極性アンバンドル教室(桑田惇平師範代)の出身。「大塚師範代の誕生をひそかに楽しみにしていたので」と遊刊エディストというメディアを通し、同じ教室の仲間であった大塚信子新師範代にエールを贈ってくださいました。この記事は感門当日のシーンから、過去の出来事まで遡る時間の重層性が魅力です。

 

まずは、78感門の「花伝所インタビュー」コーナーから始まります。「校長の檄が飛んだ」とポッと出で読者を惹きつけます。そこからこのコーナーの紹介が始まるかと思いきや、なぜか中村さんは、半年前に時間をさかのぼり、47[守]番ボーでの石井番匠・景山番匠の発言を引用。

これが何につながるのかといえば、パイセンと呼ばれた大塚信子新師範代の紹介へ。具体例を持ち出しながら、大塚師範代の学衆時代を描写。このあたりのイキイキとした筆致は、物語編集術での稽古を感じさせます。そして最後には、「じつは大塚師範代も学衆時代に花伝所指導陣からスカウトされていた」ということを明かして、冒頭の伏線を回収。この記事の主人公は、松岡校長でも、78感門の花伝所コーナーに登場した3名の突破者でもなく、大塚信子新師範代だったわけです。

 

読者の心を掴む中村さんの手腕について、山口イズミ師範代は「時空を自在に動くカット編集の手さばきに、感じ入りました」「『大塚信子』が“選ばれし者”だったという検証と読み解きが始まります。物語的要素も纏った粋な構成になっています」と高く評価。

「今宵、遅くは雨だった」春雨の感門にそっと傘をさしかけ、選ばれし者への餞を叙情的に綴ってくださいました。たしかな筆力をもつ中村裕美さんの春からの進路に期待が高まります。

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-10

 この日、セイゴオはどこから私達を見つめてくれていただろう。活け花の隙間、本楼の桟敷、編工研の屋根の上、地上15m付近の鳥の背中。低い所か、高い所か、感じ方は人それぞれだろうけど、霊魂がどこに遍在しているかを考えることと、建築物の高さは深く関係している。
 建築家・藤森照信はいろんな高さに茶室を造ってきた。山から伐り出した栗の木を柱にした《高過庵》の躙口は地上6m。その隣には地面に埋まった竪穴式の《低過庵》がある。この「高過ぎ」「低過ぎ」と言えるその基準は何なのか。

山田細香

2025-06-10

 藤森は人間の生と死のプロセスをノートに書きつけ、霊がどこに行くかをずっと考えてきた。そして人間が死ぬ場所としてドンピシャの高さを見つけ出している。それが檜の1本柱の上に建つ地上4mの《徹》だ。春になると満開の桜の中に茶室が浮かび上がる。桜は死を連想させる。この高さの絶妙さを目の当たりにすると、美しさだけでなく恐怖さえも感じてしまうのだ。

堀江純一

2025-06-06

音夜會の予習には『愛は愛とて何になる』(小学館)が是非ともおススメ。松岡校長も寄稿しています。
さらに、あがた森魚さんの映画監督第一作「僕は天使ぢゃないよ」は、なかなかの怪作なのでご興味のある方は是非どうぞ。
監督・脚本・主演・歌唱あがた森魚で、他にも横尾忠則、大瀧詠一、緑魔子、桃井かおり、山本コウタロー、泉谷しげる、鈴木慶一などなど無駄に豪華キャストなのに、なぜかヒロイン役が一般人(たぶん...)で、びっくりするほどのセリフ棒読み。さすがにこれはダメだろうと思いながら観ているうちに、だんだんこの子がいい感じに見えてくるから不思議。あがたさんの「愛の理想形」を結晶化させたような作品です。