【イシスの推しメン/19人目】目標は変えてもいい!?クリエイティブディレクター内村寿之は、なぜ編集工学の社会実装を目指すのか

2023/04/06(木)08:11
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将来の夢はYouTuber――。そんな小学生が増えている。彼らはYouTuberの何に憧れているのだろうか。有名になりたい? 遊ぶように仕事がしたい? それとも動画をつくりたい? 日本において「夢」とはすなわち「職業」であり「肩書」だ。私たちは「なにになりたいか」と聞かれるばかりで、ともすれば「なにをしたいのか」を忘れてしまう。欲望の因数分解ができないと、私たちは天職を求めて右往左往してしまう。

遊刊エディストの人気連載「イシスの推しメン」19人目は、企業のブランディングに携わり、就活生のサポートも行う内村寿之さんに話を聞いた。会社も学生も、目標がなければ動けない。しかし、その目標に縛られては意味がない。自分たちがより自由になれる目標は、どうやったら設定できるのか。その秘密には、イシス編集学校で学ぶ型があった。

イシスの推しメン プロフィール
内村寿之(Hisayuki Uchimura)

 

ブランディングプロデューサー、株式会社パラドックス執行役員。東京豪徳寺にあるISIS館の近所に引っ越したことから、2019年、イシス編集学校基本コース43期[守]に入門。応用コース43期[破]、編集コーチ養成コース33期[花伝所]修了。本業ではコーポレートブランディングを主軸に、人や組織の「志」の実現に向けてコンセプトや物語をつくる。宣伝会議や企業研修での講師実績もあり、経済産業省BtoB広告賞 金・銀・銅賞や、英国D&AD賞ブランドロゴ部門、グッドデザイン賞など受賞歴多数。圧倒的な実績を持ちながらも驚くほど腰が低く、イシス編集学校感門之盟では裏方としてZoom環境の整備をすることも厭わない。


■人生は「衣食住」+「働」
 アメリカで考えた日本人の働き方改革

 

――プロフィールにはクリエイティブワークでの実績が輝いていますが、お仕事内容を教えていただけますか。

 

企業のブランディングのお手伝いをしています。企業の経営者や現場のプロジェクトメンバーとともに企業理念を考えていく仕事です。具体的にいえば、企業のコアとなる言葉を作って、企業内の理念浸透活動やウェブや冊子、動画などのアウトプットに落とし込むという感じですね。担当する業界は多種多様で、やったことのない業界がないくらいです。

 

――その会社でずっと働いていると、意外と自分たちの理念に気づいていないことが多いですよね。

 

そうなんですよね。僕たちがなにか新しい理念を作りあげるというより、みなさんが忘れてしまったものや気づいていないものを引っ張り出していくだけだと思います。
僕がこの仕事に携わるようになったのは、日本で働く人たちって、自分の仕事に自信がない人が多いとわかったからなんです。すごくいい仕事をしているのに、みんな自信がない。

 

――日本人の働き方を相対化できたということは、海外での生活経験があったんでしょうか。

 

僕はアメリカの大学を卒業していて、学生時代はアパレルのショールームで働いていたんです。そのとき、そこのフィンランド人のボスが僕に言ってきたんですよね、「日本人ってファッションスタイルはわかりやすいんだけど、ライフスタイルが見えてこない」って。それで、たしかに日本人のライフスタイルってなんだろうなって考えたんですよ。

 

――なるほど。

 

ライフスタイルの三本柱は「衣食住」ですが、でも日本人にはそれに加えて「どう働くか」ということが4本目の柱になっていると思ったんです。人生は「衣食住“働”」だろうと。でも、僕が大学生だった20年近くまえは、日本では労働時間が長いほうがえらいという価値観があったり、過労死が生まれるような状況になっていたわけです。だから「働」を本来のかたちで充実させて、人生をより豊かにしていきたいなと思って日本に帰ってきたんです。

 

■いまこそ、西洋よりも日本の方法を
 イシス編集学校の型を社会実装するために 

 

――帰国後は、いまのパラドックスという会社でずっと企業のブランディングをなさっていると。誰かの考えをまとめるということについては、イシス編集学校に入門するまえからすでに方法論をお持ちだったと思いますが、イシスで学ぶ方法に目新しさはありましたか。

 

もう15年もいまの会社で働いていますが、イシスの方法は新鮮でしたよ。「日本の型」を知ったのは初めてでした。たとえばSWOT分析など、僕らが使っている「フレームワーク」って西洋のコンサルティング業界で使われている型なんですよね。でもイシスで学ぶ型っていうのは日本で生まれたもの。神話や歴史に根ざした「日本ならではの方法」は、お客さんに説明するときの受け入れてもらいやすいです。

 

――世間的には、「日本」の方法よりも「西洋」の方法のほうが優れていると思う人も多いのかなと思うのですが。

 

かつてはそうでしたね。西洋のほうが正しいと思っていた人が多かった。でも、ここ10年くらいで変わってきたと思います。
資本主義の限界が見えてきて、ゼロかイチかをはっきりさせる西洋の発想だけではなくて、もっと曖昧さのある日本の方法などを選択肢として考えてもいいんじゃないかと思い始めた人が増えてきているんじゃないでしょうか。

 

――イシス編集学校はもともとご存知だったんでしょうか。

 

2019年に東京・豪徳寺に引っ越したんです。すると妻が「近くに、ISISという怪しいロゴが付いた建物がある」と教えてくれまして(笑)。もともと松岡正剛校長のことは知っていたので、イシス編集学校だとピンと来ました。こんなに近所にあるんだったら通ってみようと思って調べたのが最初ですね。でもオンラインの学校だったので、家が近いことのメリットはそんなになかったです(笑)。

 

――ふだんワークショップを主催している内村さんにとって、イシスのすごさを感じた場面ってありましたか。

 

初めて入門した教室で感動しましたね。牛山惠子師範代が、教室に集った10名の学衆さんをだれひとり置いていかないんですよ。一般的に、組織には意欲的な人2割、普通の人が6割、意欲が低い人が2割という「2-6-2の法則」があるので、下の2割は諦められがちなんです。でもイシスはそうじゃない。だれひとり置いていかないのは、ふつうの仕事ではできることではないです。

 

――内村さんは基本コース[守]、応用コース[破]、編集コーチ養成コース[花伝所]と一気に進まれていますね。

 

[守][破][花]までワンセットだと思っていたので、迷いなく進みました。とくに花伝所がすごく面白かったんですよね。生徒として受講するだけでなく、指導陣として関わる講座の裏側を見ることができたのはいい体験でした。

 

――花伝所を修了すると師範代認定資格を手にいれられますが、内村さんは実際に教室をおもちになることはなかったんですね。

 

学んでいくにつれて、イシス編集学校で手にした方法を世の中に実装したい気持ちが強くなってきたんです。これは世の中に広めないといけないと思ったんですよ。なので、ここで学んだ型を使って仕事をしていこうと決めました。それに加えて、僕はひとつの組織にどっぷりと浸かるより、複数のコミュニティの境界に自らを置きたいという性格もあると思います。

 

――入門して編集術を学ぶと、すでにご自身がもっていた方法に名前が付いたという感覚だったのでは。

 

そうですね、方法が体系的に整理されたので、再現性が格段にアップしました。会社の若手に教えたり、お客さんにワークショップをしたりするときにもすごく説明がしやすくなりましたよ。


■悩める学生は、「アーキタイプの就活」を
 「志」とは編集しつづける姿勢のことである

 

――基本コース[守]では38の型を学びますが、ふだんお使いの型はなんでしょう。

 

あぁ、[守]のなかでは、3ヶ月目に学んだ《アーキタイプ》という考え方にはとくに感動しましたね。非常に本質的なものだと感じました。

 

――《アーキタイプ》って、私たちが「〜らしさ」とか「〜ぽさ」を感じるときにアタマのなかで動いている《略図的原型》のひとつですね。

 

僕は就活生のサポートもしているのですが、「◯◯商社に入りたい」とか「コンサルになりたい」という学生は多いんですよね。でもこれって、自分がやりたい仕事を《ステレオタイプ》という典型か、《プロトタイプ》という類型でしか捉えられていないんです。そこに留まっているとそれ以外の選択肢が見えないのですが、そもそも「銀行の本質って何?」「コンサルの本質って何?」と《アーキタイプ》まで掘り下げると、一気に選択肢が広がるんです。でもそういう考え方を教えてくれる人って、まずいないんですよね。

 

――会社にとっても「◯◯商社」という看板に憧れて来た学生よりも、銀行の本質的な仕事がしたいと願っている人のほうを雇いたいですよね。この会社に入りたいという「ステレオタイプの就活」ではなくて、いわば「アーキタイプの就活」が必要だっていうことですね。

 

むかし「俳優になりたい」という学生に出会いました。でも、その人がやりたいことを掘り下げていくと、「演技をしたい」のではなくて「誰かの代弁をする人になりたい」という思いがあることがわかって、俳優とはまったく別のキャリアを選んでいったことがありましたね。

 

――もしかするといまの学生たちは、いったん「こうなりたい」という目標を立てると、それ以外の選択肢を選びにくくなっているんでしょうかね。

 

彼らはまじめなので、一度決めた目標はかならずやりとげなければならぬと思い込んでしまっているようです。でも、イシスには《BPT》という型がありますよね。これって、目標という《ターゲット》を一度決めても、そこへむかう《プロフィール》という道のりはさまざまだし、《ターゲット》だって自由に動かしていいということを教えてくれるもの。学生にも、目標を《BPT》で考えるということを伝えています。

 

――自分のキャリアを《アーキタイプ》や《BPT》で考えることもできるなら、会社のブランディングでもこの型を使うことができそうですね。

 

そうそう、企業のブランディングでも、会社の歴史をたどるだけではなくて、言葉の由来を探ったり、その職業の成立まで遡ることはかならず行っています。そういう点で、イシス編集学校が主催している『情報の歴史を読む』というイベントは興味があって、予定があう限り参加しています。ヤマザキマリさんの回なんかは、素晴らしく面白かったです。

 

――ものごとの「本来」の姿まで遡ることで、その「将来」が見えてくるというのは松岡校長の方法でもありますよね。

 

たとえば、ある製造業の会社のブランディングをお手伝いしたことがあるんですが、その会社はかなりの規模を誇っているのにも関わらず、企業理念をもっていなかったんですね。なぜなのか考えていくと、その会社は明治期に「富国強兵」という国の政策のために立ちあがったものだったんです。だから、国家の方針が変わってしまうと、自分たちが迷子になってしまったようで。

 

――編集工学研究所のモットーは「生命に学ぶ 歴史を展く 文化と遊ぶ」。イシスでもそれを学ぶことができますが、内村さんはこのことをお仕事で実践しておられるようで。

 

そうそう、言葉の由来を調べることでわかることもありました。僕が働く会社は「志の実現に貢献する」という理念があるんです。「志(こころざし)」って聞くと、崇高で、動かしがたいものに感じていたんですが、イシスの稽古でも使う白川静の『字解』を引いてみたらそうじゃなかったんです。
「志」とは「心がなにかに向かっている状態」が原義にあるそうなんです。ということは、「志」って名詞じゃなくて動詞だな、と。「志のある人」というのは、大きな目標を持っていることではなくて、なにかに向かっている人なんだなとわかったんです。

 

――おぉ。「志」って、動かぬターゲットではなくて、そのターゲットに向かって動いていく《プロフィール》に近いのかもしれませんね。

 

私たちはともすると「ゆるがないもの」「一貫性があるもの」に価値を見出してしまいますが、動き続けることこそ「志がある」ものなんですね。世の中は変わってきていて、0か1か、白か黒かはっきりさせる時代ではありません。世間に編集が足りていない局面は多いので、引き続き仕事を通じで編集工学を実装していきたいと思います。

 

 

シリーズ イシスの推しメン

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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