発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

53[守]で新しく師範に加わった山崎智章は、伝習座名物・師範による「用法語り」の進行を担った。進行役だからこそ見えて来た「3」の神秘とは――。山崎師範が[守]伝習座をレポートします。
日本三景、三大都市圏、御三家に造化三神。日本人が大好きな数「3」は、世界でも特別だ。
全世界ネット配信もはじまった中国の作家、劉慈欣による長編SF小説『三体』のモチーフは、古典的物理学の難問「三体問題」。三体問題はかつてオイラー、ラグランジェといった著名な数学者・科学者の挑戦を退け、いまでは解析的には厳密に解けない問題であることが分かっている。(※特殊な状況の解はあるが)
扱う対象が2つから3つにふえただけで、物理・数学でも解けない難問になるからか、世の中には分かりやすい2択が増えすぎている。そもそも世の中簡単に割り切れるシンプルな問題や、その正解などないというのに。
編集学校[守]の38の稽古で送られる「お題」にも、唯一の正解はない。また、38の稽古を4つに纏めた「用法」も、その解釈は一意に定まるものではない。
2024年4月6日(土)に開催された53[守]の伝習座では、石黒好美、北條玲子の2人の師範から、用法1「わける/あつめる」、用法2「つなぐ/かさねる」がそれぞれの切り口で語られた。
「わけるが先か、あつめるが先か」石黒の語りはこの問いからはじまった。
「赤ん坊は母や世界が自分とは異なると気付き、そこを分けることで認知や思考を一気に深める。だからわけるが先なのです。分離を恐れては、世界は分からなくなる」と、師範石黒は断じる。当り障りがないように、分けるべきモノを分けず、グローバリゼーションによる同質化の影響を受ける世界への力強い初手だった。
「わける/あつめる」を行った情報を、放置してはいけない。用法語りは「つなぐ/かさねる」へと続く。
「編集思考素は美しい。便利だから使うのではない、美しいものは人の心を動かすから使うのです」と北條は放った。
編集思考素とは、用法2で稽古する情報/概念を関係付ける思考単位の型であり、「三間連結型」、「三位一体型」、1つを2つに分ける「二点分岐型」、2つを1つにまとめる「一種合成型」と、「3」で出来ている型が多い。編集工学ではさらに、「2+1」(ツープラスワン)や「A、BorC」という捉え方をするが、そもそも概念は例えば、「男と女」、「地獄と極楽」といった一対で安定し、そこに1つの情報を与えると動きだす。「地獄と極楽」に「泥棒」を足せば、蜘蛛の糸という物語が生まれるように。
タンゴのダンサーでもある北條の信望する作曲家ピアソラは、クラシックとジャズという2つの音楽を1つのタンゴに合成し、踊らないタンゴという新しいタンゴを生み出した。
2に1つ加わると動きが出るさまは、まるで三体問題のようだ。三体問題は解がないと書いたが、そこにはいくつかの特殊解が存在する。その一つは三体が正三角形に配置された場合、そう三位一体だ。編集思考素には理科的な美しさが潜んでいる。
北條は、例えば西行の山家集の千夜千冊の構成が「花月心」という三位一体型で出来ているように、千夜千冊の中には編集思考素が綺羅星の如く現れ、美しい文章となっていると語る。
能の構成である序破急が三間連結であるように、父と子と聖霊と言う三位一体を聞けばキリスト教とすぐ分かるように、表現に「3」を内在する編集思考素が現れると、文理を問わず、その美しさとともに人の心と世界を動かす。
「わける/あつめる」よりはじまった用法語りは、美しい編集思考素による「つなぐ/かさねる」を経て、複雑な世の中に対峙する「編集」を加速する。
(参考)
『三体問題』浅田秀樹著 講談社ブルーバックス
『三体』劉慈欣著,立原透耶監修,大森望訳,光吉さくら訳,ワンチャイ訳 早川書房
千夜千冊 1846夜 『グノーシス 異端と近代』
千夜千冊 0018夜 『科学と方法』
アイキャッチ/阿久津健(53[守]師範)
文/山崎智章(53[守]師範)
写真/後藤由加里
★第53期[守]基本コース
稽古期間:2024年5月13日(月)~2024年8月25日(日)
申込はこちら
イシス編集学校 [守]チーム
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コメント
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2025-07-01
発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。
2025-06-30
エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。
2025-06-28
ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。