型があるから自由に踊れる―編集はサルサだ! 51[守]学衆×師範×数奇対談

2023/10/06(金)12:25
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カリブ海で生まれた情熱と官能の音楽、サルサ。キューバ・プエルトリコで生まれたサルサは各地の音楽と融合しながら広がり、今では世界中の老若男女を踊らせている。
かつての職場の上司の勧めで51[守]を受講したという関博一さん(ホンロー・ウォーク教室)、関麻衣さん(正夢ジップロック教室)もサルサに魅了されたご夫妻だ。しかも、15週間の稽古を通じて「サルサ」と「編集」にたくさんの共通点を発見したという。
 特別対談「51[守]学衆×師範×数奇」の第二弾は、編集学校きっての夜遊び好きで「くちびるディスコ教室」という教室名を拝命したこともある石黒好美師範が、「サルサと編集」をテーマに関さんご夫妻にサルサの魅力について“指南”をいただくこととなった。


 

◆サルサの中にも「編集の型」が!


博一:サルサは運動不足の解消のために始めました。以前はスポーツジムに通っていたのですが、健康のためにと義務感でトレーニングすることに面白みを感じられなくて。ダンスなら楽しく体を動かせるかなと思って、夫婦で体験レッスンに行ったのが最初です。

 

麻衣:音楽を聞くだけでも気持ちが高まるし、クラブやバーでお酒を飲みながらいろいろな人とペアになって踊るのも楽しい。ジムでは30分とか1時間で根を上げていたんですが、サルサのクラブで踊っていると「気づいたら5時間経ってた!」なんてことも珍しくありません。

 

博一:サルサは世界中にファンがいるので、旅行や出張に行った先でもその国の人と踊って自然と仲良くなれるのも魅力の一つです。

 

石黒:お二人はサルサの先生にも『知の編集術』を勧めたとおっしゃっていましたよね。

 

博一:その先生は[守]のお題で言うと「一種合成」とか「やわらかいダイヤモンド」みたいな、2つの単語を組み合わせた独特の言葉でインストラクションしてくれるんですね。

 

麻衣:大事なポイントや踊りのイメージがすぐ伝わって、とてもレッスンが楽しいんです。「先生も、絶対にこの本好きやろ!」と思って『知の編集術』を郵便で送りました。(笑)

 

博一:予想通り先生もすぐハマってくださり「ダンスも編集なんだ」とおっしゃっていました。
 先生はステージパフォーマンス振り付けの第一人者なのですが、そのパフォーマンスがまた素晴らしくて。考えてみると、これも[守]で稽古した「カット編集術」のように、ステップや振り付けの組み合わせ方がユニークだから、独特の世界観が表現できるのだなと思いました。

 

麻衣:そもそも「サルサ」は「ソース」という意味ですよね。様々な素材を合わせて料理のソースを作るように、最初はアフリカとキューバ・プエルトリコの音楽がミックスされて、その後ジャズやソウル、ロック…と違うジャンルの音楽と融合しながら変化して世界に広がっていったところも編集っぽいと感じます。

 

◆ダンスを「型」にはめるなんて、窮屈では?


石黒:実は私、20代の頃にサルサを習って、すぐに挫折しちゃったことがあるんです。私はサルサではないクラブに行っていたので、ステップを覚えるのが窮屈に感じてしまって。踊り方を覚えなくても、音楽に合わせて思うまま踊れば楽しいじゃないですか。

 

博一:たしかに「体を動かす」「音楽に合わせて踊る」「色々な人と交流できる」という楽しさは、ステップを覚えなくても実現できますね。

 

石黒:そうでしょう!?しかも「男性のリードに合わせて女性が踊る」というのもフェミニストの私としては許せなくて・・・。

 

博一:サルサにはステップのパターンはありますが、こうしなければならない、と決まった踊り方があるわけではないですよ。確かに男性がリーダーを担うことが多いですが、そのリードをどう解釈して踊るかは、実はフォロワー役の女性側に委ねられているんです。
リーダーもフォロワーも、かかった曲に合わせてどう踊るか、相手がベテランなのか初心者なのか、何が好きなのかを確認しつつ、最近覚えたステップに挑戦しようとか、自分がやりたいことも組み合わせて、どうしたらお互いが唯一無二の瞬間を共に創り上げて楽しめるかを即興で考えて踊るのが面白いところです。

 

石黒:なるほど、踊りながらルールやロールを少しずつ動かして編集しているんですね!

 

麻衣:サルサのクラブでは音楽に合わせて好きなように踊ったり、ペアを組まずに一人で踊るのももちろんOK。

でも、ペアで踊ると1+1が2以上になるどころか、10倍にも100倍にもなる。誰かと一緒に踊ることで、自分が思ってもみなかったことが引き出される楽しみがあるんです。

 

石黒:学衆さんと師範代の関係のようでもありますね。

 

博一:自分一人で考えた動きを何度やってみても、そんなにバリエーションが広がらない気がするんですけど、相手がいると化学反応が起きていろんな踊りが生まれるんですよね。[守]の教室でも「お題」があったり、師範代や他の学衆さんと一緒に稽古するから発想が広がるみたいに。

 

◆「型」があるから伝えられる

韓国・済州島のダンスフェスティバルで踊る関さんご夫妻

 

博一:サルサのクラブやパーティーって、楽しい時間を過ごす「場」をみんなで作っていくものだと思うんです。ステップという「型」があるのは、初めて会った人同士でも安心して共同作業ができるようにするための枠組みというか、土台でもあるんじゃないかな。

 

麻衣:私は以前に何も手につかないくらいメンタルが落ち込んでしまった時期があって…。その時、サルサのクラブで踊ったらみるみるストレスから解放されて「私はサルサに命を救われた」くらいに感じています。
調べてみたら、サルサの起源はキューバやプエルトリコのプランテーションにアフリカ から連れて来られた奴隷たちの歌や踊りにあることが分かりました。そんな極限状態を生き延びた人たちを勇気づけてきたものだから、サルサに自分を解放する力があるのは当然なんですよね。

 

石黒:日本の能や歌舞伎のような踊りにも「型」がありますよね。「型」の中にはそれを生み出してきた記憶や思いが込められているのでしょう。情報はinformation、「in・form」、つまり「型」に入っているからこそ伝えられることがある。「型」によって受け継がれてきた思いは、踊ることによって再生されて、編集されてまた別の人や時代に引き継がれていくんですね。

 


●対談を終えて
サルサと[守]のお題を重ねてそれぞれの「型」を照合し、それぞれの魅力を鮮やかに言語化されるお二人の姿に、15週間の編集稽古の充実が表れていた。
次にどんな曲がかかるか分からないという「偶然」や、初めて会う人という「他者」や「異質」も受け入れながら、楽しく自分と場を動かしていく。サルサと編集の間にも、たくさんの類似や相似が見出された。

51[守]で基本の編集ステップを身に着けたら、よりスリリングな51[破]というパーティーへ。まずはちょっと踊ってみたいという方は、52[守]へどうぞ。「はじめまして」の方と一緒に、ここにしかない場を存分に味わうタフでセクシーな稽古があなたを待っている!



アイキャッチ/阿久津健
文/石黒好美


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  • 石黒好美

    編集的先達:電気グルーヴ。教室名「くちびるディスコ」を体現するラディカルなフリーライター。もうひとつの顔は夢見る社会福祉士。物語講座ではサラエボ事件を起こしたセルビア青年を主人公に仕立て、編伝賞を受賞。