【多読アレゴリア:大河ばっか!①】「大河ばっか!」の源へ(物語マザー編)

2024/11/16(土)08:00 img
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多読アレゴリアWEEK開催中!!!!!
12月2日のオープンに向けて、全12クラブが遊刊エディストを舞台に告知合戦を繰り広げます。どのクラブも定員に届き次第、募集終了です。すでに締切間近のクラブもいくつかあるので、希望のクラブに絶対入りたいという方はお早めの申込をオススメします!!!!!


 

 数寄を、いや「好き」を追いかけ、多読で楽しむ「大河ばっか!」は、大河ドラマの世界を編集工学の視点で楽しむためのクラブです。
 ナビゲーターを務めるのは、筆司(ひつじ)こと宮前鉄也と相部礼子。この二人がなぜこのクラブを立ち上げたのか?それは、物語好きな筆司たちが、過去の大河ドラマを編集工学の型によって紐解き、その魅力を分かち合いたいという思いからです。
 ここでは、物語における編集工学の手法である物語編集術を駆使し、2001年大河ドラマ『北条時宗』から、ストーリーを形づくる「物語マザー」を発掘してみたいと思います。

 

 

 物語マザーとは、英雄伝説に共通する物語の普遍的な構造を指し、物語の中で登場人物の成長や内面の変化を描き出すために使われる型です。編集工学では、ジョセフ・キャンベルが見出した英雄伝説の三段階「セパレーション(出発)→イニシエーション(試練)→リターン(帰還)」をさらに五段階に分けた物語マザーが参照されます。この五段階構造は冒険物語に限らず、複雑な人間関係を描く大河ドラマにも適用されており、登場人物の内面を掘り下げ、物語のテーマに奥行きをもたらす力強い手法です。

 

この五段階構造は以下のような段階で成り立っています。

原郷からの旅立ち
 主人公が安定した立場や故郷を離れ、新たな道を進む決意をする段階

困難との遭遇
 予想外の試練や裏切りに直面し、思いがけない困難と対峙する段階

目的の察知
 数々の試練を経て、主人公が旅の真の意味や自分の使命に気づく段階

彼方での闘争
 物語のクライマックスとなる決戦や最も難しい試練に挑む段階

彼方からの帰還
 成長した主人公が、自分が属するべき場所や新たな場所へ帰還する段階


 大河ドラマ『北条時宗』も、この五段階構造に沿い、主人公・北条時宗と異母兄・時輔という一対のキャラクターを軸に物語が展開されます。ここからは、時宗と時輔の成長と葛藤を、この五段階構造に沿って解説します。

 

1.原郷からの旅立ち
時宗と時輔は、幼い頃には兄弟として穏やかな関係を築いていましたが、成長するにつれ、それぞれ異なる道を進むことを余儀なくされます。兄・時輔は、側室の子として育てられ、冷遇される中で時宗に対する愛憎の入り混じった複雑な感情を抱くようになります。時宗の父である時頼は、時宗に対抗する勢力が時輔を担ぎ上げることを懸念し、時宗に「時輔を殺せ」と遺言します。しかし、時宗は兄を殺さず、六波羅探題への出向というかたちで時輔を鎌倉から遠ざけます。この出来事は、時輔にとって新たな運命への「出発」であり、時宗にとっても兄弟の絆という原郷からの「旅立ち」となりました。

 

2.困難との遭遇
六波羅探題南方に赴任していた時輔は、やがて二月騒動に巻き込まれ、反幕府勢力と見なされて時宗によって命を狙われることになります。重傷を負い、左腕に障害を負うものの、憐れんだ北条義宗の目こぼしもあり、辛うじて脱出に成功します。その後、時輔は行く先々を転々としながら、時には蒙古とも接触し、幕府の支配に依らない新しい日本のあり方を模索します。孤独と裏切りの中で理想を抱き続ける時輔に対し、執権の時宗は、蒙古襲来という国家の危機に直面し、幕府を守るために冷徹な決断を下し続けます。

 

3.目的の察知
流浪の旅を続ける中で、時輔は自らの真の目的に気づきます。それは、日本を外の世界へと開き、新しい未来の可能性を切り拓くことでした。時宗への愛憎を超え、理想を信じる道を進む覚悟を固めます。一方で時宗もまた、執権としての使命を理解し、幕府の安定と国家の存続を守ることに全力を注ぐ覚悟を決めます。こうして、二人はそれぞれ異なる使命に目覚め、物語はさらに深みを増していきます。

 

4.彼方での闘争
物語がクライマックスに達し、蒙古による二度目の襲来が迫る中で、兄弟の対立も激化します。時輔は、自分の妻を殺した時宗への私怨を捨てたように、日本も蒙古への憎しみを捨てて和睦し、戦を避けるべきだと考えます。時輔は時宗に和解を求めますが、時宗は蒙古の使節を斬り捨てるよう命じ、徹底抗戦の姿勢を崩しません。「公」の立場として幕府と日本を守るために再び戦う覚悟を決めた時宗と、恨みを超えて新しい道を拓こうとする時輔の間で、信念が激しくぶつかります。兄弟それぞれが異なる使命と覚悟を試される、決定的なシーンです。

 

5.彼方からの帰還
蒙古を退け、幕府を守り抜いた時宗でしたが、まもなく病に倒れます。臨終の床で時輔と再会し、幼い頃の兄弟としての絆を思い出しながら、ついに和解を果たします。時輔は弟の最期を静かに見届け、その後、家臣の服部正左衛門とともに「世界の果てを目指して旅立つ」道を選びます。この旅立ちは、日本を超えて広がる理想の追求であり、時輔にとっての「帰還」として描かれます。時宗もまた、兄弟愛の中で最期を迎えることで「公」を離れ、「私」の一面に立ち返りながら、幼き日の原郷へ還るかのようにこの世を去っていくのです。

 
『北条時宗』に潜む「物語マザー」は、時宗と時輔の成長と葛藤を通して、視聴者に深い問いを投げかけます。二人の選択を見つめることで、視聴者は「守るべきもの」と「切り拓くべき未来」について考えさせられ、物語の世界に引き込まれていきます。このようにして『北条時宗』は、単なる歴史劇を超え、普遍的なテーマを体現する第一級の人間ドラマとして成立しているのです。

 

 
 多読アレゴリア「大河ばっか!」では、このように編集工学の視点から大河ドラマを深く読み解いていきます。クラブ内で語り合いながら、登場人物の成長や葛藤、物語に隠されたテーマを掘り下げ、大河ドラマに流れ込む豊かな支流を一緒に生み出していきましょう。どうぞお楽しみに!

 


多読アレゴリア「大河ばっか!」
【定員】20名
【開講日】2024年12月2日(月)
【申込締切日】2024年11月25日(月)
【受講費】月額11,000円(税込)
*2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、
2クラブ目以降をお申し込みください。
【開催期間】2024冬 2024年12月2日(月)~2025年2月23日(日)以後順次決定

お申し込みはこちらから
https://shop.eel.co.jp/products/detail/765


アイキャッチ画像:大河ばっか!×山内貴暉

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  • 宮前鉄也

    編集的先達:古井由吉。グロテスクな美とエロチックな死。それらを編集工学で分析して、作品に昇華する異才を持つ物語王子。稽古一つ一つの濃密さと激しさから「龍」と称される。病院薬剤師を辞め、医療用医薬品のコピーライターに転職。