角山祥道 | 遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp Sun, 29 Jun 2025 08:48:04 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.1 https://edist.ne.jp/wp-content/uploads/2019/09/cropped-icon-512x512-32x32.png 角山祥道 | 遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp 32 32 発掘!「空梅雨」――当期師範の過去記事レビュー#03 https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu03/ https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu03/#respond Mon, 30 Jun 2025 03:03:00 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87505  イシス編集学校の目利きである当期の師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けする過去記事レビュー。3回目のテーマは、世間を賑わす「空梅雨」。空梅雨をどう読み替えたのか。ここからどんな連想を広げた […]

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 イシス編集学校の目利きである当期の師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けする過去記事レビュー。3回目のテーマは、世間を賑わす「空梅雨」。空梅雨をどう読み替えたのか。ここからどんな連想を広げたのか。師範の編集は流流、仕上げを御覧じろ。


聴こえない音に耳をすませば

北條玲子 55[守]師範の発掘!

02:モノオトに耳を澄ます【高橋陽一の越境ジャンキー】

 雨音は何かを連れてくる。さぁさぁと流れる雨の縦糸の間からは、日頃気にもとめていない音が意外なほど耳に入ってくるものだ。雨音の奥に幽かに聞こえる念仏。雨のアスファルトに軋むタイヤの音。いずれも雨がなければ通り過ぎるノイズだ。しかし、偶然の雨を待たずにヒトはモノオトを探究するものだと、この記事は語りかける。音楽を環境音へと反転させたサティ、環境音から音楽を聴き取ったルッソロ、そして、沈黙を雄弁に語らせたジョン・ケージ。ないものが音を際立たせたケージの勇躍は、1990年に植物の生体電位の変化を音に変換した「プラントロン」へと繋がった。雨を待たずとも、物言わぬ植物の語り掛けを聴くことができるのだ。

拍子抜けのあとに何がくる?

齋藤成憲 43[花]錬成師範の発掘!

柑ぽんソーダと女教師 ~甘く切ないクオリアな思い出~

 連日の空梅雨とは拍子抜けだ。八百屋に走り自家製のはちみつを手に腕まくりしていざ台所に立つも、ものの1分で出来上がり。ぽかんと拍子抜けしたのが宮川大輔師範だ。レシピは「柑ぽんソーダ」。彼の得意とした「ポンカン指南」に肖って石井梨香師範が命名した。簡単に出来たソーダは予想を裏切ることのない思った通りの味。それでも宮川師範は昂揚する思いを昇華せんと妄想を止めない。ソーダの泡越しに「リカ先生」に扮した石井師範の教師姿を映し、さらには少年期に憧れた麗しき女教師の面影を重ねる。拍子抜けた状態から甘く切ないクオリアを見出すという力技。宮川ワールドは汗ばんでいる。この熱帯性高気圧は梅雨前線をさらに北へと押し上げた。

器に何を注ぐのか
中村麻人 43[花]錬成師範の発掘!

37[花]入伝式 松岡校長メッセージ 「稽古」によって混迷する現代の再編集を

 ある勢力が他方を侵食し、均衡が崩れ、境界が再編される。国際情勢でも政治でも貿易でもなく、梅雨前線の話である。今年もまた空梅雨になるらしい。
 気象現象はシミュレーションで予測可能だが、世の中の諸問題はそうはいかない。今なお乱世は続き、計り知れないことが次々と起こる。こうした時代にあって、松岡校長は世阿弥に戻れと説く。
 世阿弥の能集団もかつては弱小勢力だった。勢力再編の目まぐるしい戦国の世で、彼らは自らの技術と生き方を家に託して守り抜こうとした。世阿弥の言葉に「家、家にあらず、継ぐをもて家とす」とある。
 日本も、イシスもまた家なのだと気づく記事だ。ではその器に何を注ぐのか。編集稽古はまさにそこから始まるのである。

 

「空梅雨」ならば、雨を待たずに、想像の耳で雨音を聴きに行こうと呼びかけたのは北條師範。五感に響くレビューです。期待とは異なる出来事と「空梅雨」を重ね合わせたのは齋藤師範。石井師範の元記事をインタースコアしてみせた宮川師範の記事に、新たな意味を与えました。麻人師範は「空梅雨」から一気に読み手のパースペクティブを広げ、「予測も付かない世を生き抜く世阿弥の方法」を説きます。三者三様の見方づけによる「空梅雨」セレクトが並びました。
 梅雨が明けて、本格的な編集の夏の到来です。

アイキャッチ/阿久津健(55[守]師範)
編集/角山祥道(43[花]錬成師範)

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発掘!「めぶき」――当期師範の過去記事レビュー#01

発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02

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夏、高見順の『敗戦日記』を読む【勝手にアカデミア/多読アレゴリア】 https://edist.ne.jp/past/tadoku_katteni_25summer/ https://edist.ne.jp/past/tadoku_katteni_25summer/#respond Tue, 27 May 2025 06:00:14 +0000 https://edist.ne.jp/?p=86789  戦後80年のこの夏、多読アレゴリアのクラブ【勝手にアカデミア】は、高見順の『敗戦日記』を共読します。    「鎌倉アカデミア」は、戦後すぐ、鎌倉に誕生しました。敗戦で「なにもない」中、人々が欲したのは「知」で […]

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 戦後80年のこの夏、多読アレゴリアのクラブ【勝手にアカデミア】は、高見順の『敗戦日記』を共読します。

 

 「鎌倉アカデミア」は、戦後すぐ、鎌倉に誕生しました。敗戦で「なにもない」中、人々が欲したのは「知」であり「学びの場」だったのです。
 【勝手にアカデミア】はこれまで、「鎌倉アカデミア」の学びのモデルをもどきつつ、当時の学びを追体験してきました。24冬は、「鎌倉アカデミアの時代とトポス」に目を向け、25春はクラブ内に「映画科」を開設。「鎌倉アカデミア」で学んだ鈴木清順に没入&映画鑑賞、オリジナル映画チラシを作成しました。
 そしてすぐそこに迫る25年夏。
 今度は、「文学科」を開設します。中心に取り上げるのは、「鎌倉アカデミア」の講師のひとり、高見順です。
 彼が同大の教壇に立って発した「開講の辞」を、一部紹介します。

 

「学ぶ」ということは、どういうことか。
「書く」ということは、どういうことか。

 

「学ぶ」――自分にないものを自分の内部に入れる。自己の受容。
「書く」――自分に有するものを自分の外部に出す。自己の表現。

 

「学ぶ」
A、書物から学ぶ。
B、生活(現実)から学ぶ。

 

「書く」
○書くことは、生むことである。
○書くことは、考えることである。

(『高見順日記 第7巻』勁草書房)

 

 高見順は、「書け、病のごとく書け」と自らを叱咤し、戦中も日記を書き続けました。『敗戦日記』は、昭和20年1月から12月の記録です。ここに、80年前の日本がタイムカプセルとなって保存されているのです。
 カプセルを開けるのは(学ぶのは)あなたです。

▲高見順『敗戦日記』中公文庫

恒例・好評の俳句ing(鎌倉吟行)も開催します! (せん師・大塚宏)

文/角山祥道(み勝手)

 


今年の夏は、ブンガクしよう。
多読アレゴリア2025夏 【勝手にアカデミア】

播種(運営メンバー):大塚宏(せん師)、原田祥子(お勝手)、角山祥道(み勝手)

 

【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025summer
【定員】20名(勝手にアカデミア)
【開講期間】2025年6月2日(月)~8月24日(日)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
 以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
 例)2025夏申し込みの場合
 購入時に2025年6月分を決済
 2025年6月26日に2025年7月分、以後継続


 

2025夏 多読アレゴリアWEEK

募集開始★多読アレゴリア 2025・夏スタート!!!!!!!

 

▼倶楽部撮家

写真仲間求む!編集術でカメラと戯れる【倶楽部撮家】が多読アレゴリアにやってきた

 

▼カオス的編Rec

津田一郎監修クラブ【カオス的編Rec】誕生!科学的読書法に学び、「Qの地図」を描く

 

▼勝手にアカデミア

『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS

『鈴木清順エッセイコレクション』x3xREVIEWS

この夏、高見順の『敗戦日記』を読む

 

▼軽井沢別想フロンティア

軽井沢のトポスを編む旅へ。

 

▼大河ばっか!

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ 筆文屋一左のお誘い

 

▼EDO風狂連

編集別世にいざ参らん~夏の候の船出は間近(残席僅か)

 

▼よみかき探Qクラブ

夏メンバー大募集!愉快に生きるための「読み」「書き」をヒビに挟もう

8人の書民の横顔をたくさんのQ

 

▼終活読書★四門堂

花も歌もひとりでいられない【花歌果の戒】手向けを終えて

 

▼群島ククムイ

今福龍太と夏の島旅へヨーソロー

 

▼着物コンパ倶楽部

vol.4 2025夏からの新規会員を募集します★

 

▼MEditLab for ISIS

もし順天堂大学現役ドクターが本気で「保健体育」の授業をしたら

 

▼OUTLYING CLUB

外縁から世界を編み直す

 

▼EDO風狂連

夢の続きは上野で。――続・栄華乃夢噺〈かわら版〉

 

▼身体多面体茶論

夏は疲労身体!?

 

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発掘!「アフォーダンス」――当期師範の過去記事レビュー#02 https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu02/ https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu02/#respond Sun, 25 May 2025 22:59:18 +0000 https://edist.ne.jp/?p=86164  2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テ […]

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 2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである当期講座の師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けします。

 2回目は、イシス編集学校が大事にする編集の方法、「アフォーダンス」発掘!


松岡校長の編集力を病理医が解剖す

白川雅敏 54[破]番匠の発掘!

おしゃべり病理医 編集ノート - ツッカムにみる松岡正剛の対談編集力

 お題が届けばうずうずする。学衆から回答が届けば指南したくなる。松岡校長がアフォーダンスをたっぷり仕込んだ編集稽古の不思議である。では、校長はいったいどのような仕掛けを施したのか? 現役の病理医でもある小倉加奈子析匠が書いたこの記事が、ヒントを与えてくれるかもしれない。「おぐらの発言はつまらない」。析匠が校長から面と向かって言われたその会に私は居合わせた。私ならガックリ肩を落としそうなダメ出しに析匠は、「リベンジを!」とそれは楽し気に校長の問いをチェースしてみせた。見事リベンジを果たせた・・・かどうかは記事をお読みいただくとして、そう、とびきりのアフォーダンスは面白くなくっちゃね!

物語に出会いたい!

福澤美穂子 55[守]師範の発掘!

【物語編集力シリーズ】物語づくりの「作用」と「報酬」は、[遊]物語講座にある!

「書いたものと書きたいものとの間のギャップをひとりでは埋めることができない」と作家王城夕紀は言う。だから「他者が欲しくなる」。物語講座の赤羽卓美綴師によるインタビューで、創作過程の心境、物語の効用、そして物語講座の威力がさらりと明かされた。[守][破]以上にお題にアフォードされるのが物語講座だ。お題に沿って編集力を総動員していくと、思いがけない物語が生まれる。生みの苦しみはあるが、自分がからっぽになって、物語に書かされる。「作用」や「報酬」に加えて、物語を書き上げるうえで最大のアフォーダンスを与えてくれるのは師範代だ。これから生まれる物語に出会いたくなる記事である。

目の前にさまざまな「モノ」!?

平野しのぶ 43[花]花目付の発掘!
木こりが手にした「5つのカメラ」――木田俊樹のISIS wave

 冒頭から「木こり」の文字に引き込まれる。さらに「森」や「山」のうごめき、広大なスケールと微細な変化。感知と蝕知のはざまに、日没で時を知る。アンプラグドな日常に羨望の眼差しを向けたい読者は少なくないはず。そんなタガが外れるような感覚を享受したい。記事の真骨頂は、身体ごとアフォードされる擬似感覚と新しい意味に出逢うたび、私は「生まれなおしている」と先駆的に言い放ったソンタグからの一説に昇華させたこと、これがまたニクイ。木田さんはアフォーダンスの強い環境にいるのか、そもそもアフォーダンス力が強いのか。思うに林道も獣道も芽吹きも雨天も「問い」なのだろう。それを感知できる「心地よい環境」に身を置くこと――そこに感度のヒミツがありそうだ。

 

 アフォーダンスはいろいろなものにひそんでいます。ペンを持とうと思うと、手は自然にその形になりますが、これがアフォーダンスです。例えばスイッチには「押す」というアフォーダンスがあり、椅子にアフォードされることが座るという行為なのです。「わたし」という主語から離れて、世界と自分との関係を捉え直すことができる方法、と言い換えることもできるでしょう。
 さてみなさんは、3人の師範の文章のどこにアフォードされましたか?

アイキャッチ/阿久津健(55[守]師範)
編集/角山祥道(43[花]錬成師範)

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発掘!「めぶき」――当期師範の過去記事レビュー#01

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スコアの1989年――43[花]式目談義 https://edist.ne.jp/nest/1989score_43hana/ https://edist.ne.jp/nest/1989score_43hana/#respond Sat, 24 May 2025 02:48:17 +0000 https://edist.ne.jp/?p=86256  世の中はスコアに溢れている。  小学校に入れば「通知表」という名のスコアを渡される。スポーツも遊びもスコアがつきものだ。勤務評定もスコアなら、楽譜もスコア。健康診断記録や会議の発言録もスコアといえる。私たちのスマホやP […]

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 世の中はスコアに溢れている。
 小学校に入れば「通知表」という名のスコアを渡される。スポーツも遊びもスコアがつきものだ。勤務評定もスコアなら、楽譜もスコア。健康診断記録や会議の発言録もスコアといえる。私たちのスマホやPCを介した行動履歴や傾向はすでにデータとして記譜されている。


 スコアの原義は「切り刻むこと」だ。羊飼いが羊を数える際に20頭ごとに棒切れに刻みをつけたことから、この言葉が生まれた。スコアとは、意図されたひっかき傷なのだ。ルールを決めて記録・記述することがスコアといえる。

 

 [花伝所]の式目演習で、入伝生たちが最初に取り組むのが、このスコアだ。互いの頭の中にある編集構造を交わし合うプロセスこそ「エディティング・モデルの交換」なのだが、モデル交換は、情報の差異と共通項を取り出すことから始まる。相手のモデルを大づかみする必要もあるだろう。取り出した複数のモデルをスコアし、そのスコアを重ねることが「インタースコア」なのだ。


 「インタースコア」は[花伝所]の最重要の方法のひとつだが、この「複数重ねる」というアプローチが思いのほか難しい。ただ並べればいいものではないからだ。


 では実際にスコアを複数、重ねてみよう。
 私の手元にある、意図をもって記譜した記録――クロニクル本から、恣意的な年を取りだして、インタースコアしてみる。

▲手元に集まってきたクロニクル本たちの一部。


 点として取り出すのは、昭和と平成の境界であり、ベルリンの壁が崩壊した1989年だ。
 この年のことは、今でも記憶に鮮明だ。
 同時代人として当時、歴史的な年だという確信があった。手塚治虫、色川武大、松下幸之助、美空ひばり、森敦、古関裕而、谷川徹三、隆慶一郎、松田優作、開高健、田河水泡……私は仲間を集め、1989年に亡くなった人の名を片っ端から記譜した。さらに同年の出来事を記録するべく、近所のおばさんから中学生までさまざまな属性の30人の書き手を集め、「小さなニュースから1989年を見る」を切り口に、小冊子を編集したりもした。

 

 だが、このときの私はまだ「集める」ことで精一杯だった。今回、30余年ぶりに「1989年」という年をインタースコアしてみたい。

 一九八〇年代は、おそらく日本の歌謡史上の一つの転換期として後世に記録されるのではないかと思う。その理由の第一は、何といってもCDという新しいレコード媒体の発明であろう。(中略)理由の第二は、一九八九年に昭和という年代が終わったのを象徴するかのように、このころから九〇年代初頭にかけて一つの時代を画した歌い手や作曲家が亡くなっていったことである。(古茂田信男ほか編著『新版 日本流行史 下』社会思想社)

 

 美空ひばりは1989年、川の流れのようにこの身を任せたいと歌い(『川の流れのように』)、同年ユーミンは、ありふれた日も私にとっては記念日なんだと訴えた(『ANNIVERSARY』)。
 「このサラダの味がいいね」と彼氏が口にした、という個人的な理由で記念日を作ってしまったのは俵万智だが(『サラダ記念日』河出書房新社)、この歌集がベストセラーになったのはユーミンの『ANNIVERSARY』の2年前、吉本ばななが世に出た1987年のことである。
 そのばななの初の長編小説『TUGUMI』(中央公論社)が上梓されたのは、1989年だ。

 吉本ばなな作品の特徴は、物語の世界がすべてあるということです。(中略)よく考えれば「そんなバカな」設定の物語が成立してしまうのは外部(社会)との関係が断ち切られているからで、その点ではおとぎ話といっしょです。(斎藤美奈子『日本の同時代小説』岩波新書)

 

 様々な業界が、「小さいもの」へと向かった。
 1988年に「新赤版」の刊行を始めた岩波新書もそのひとつだ。

(新赤版は)一口にいえば、主題を身辺に求めた本が増えた。時代ないしその動向を真っ向から俎上に載せる論議を、仮に“大論”とすれば、そうした範疇に括られることを意識的に避けたような“小論”が増えたということである。(鹿野政直『岩波新書の歴史』岩波新書)

 

 小売業界は、「スイートテン・ダイヤモンド」(1989年)などプライベートな記念日を創り出し、購買を煽った(『チャートでみる日本の流行年史』PARCO出版)。
 サブカルチャーはここぞとばかりに勇躍、表舞台に踊り出た。1989年には「ゲームボーイ」が発売され(『僕たちのゲーム史』星海社新書)、写真は芸術として根づき始める(『日本写真史1945-2017』青幻舎)。

 1989年に『AKIRA』が全米で公開されると、「日本製アニメ映画としては初の大当たり」(フレッド・ラット)となり、ブーム現象さえ起きた。「AKIRAショック」である。これを機に日本アニメは一気に認知度を高め、アングラの世界から脱して幅広い層へ支持拡大を果たしていく。(澤村修治『日本マンガ全史』平凡社新書)

 

 「24時間、戦エマスカ。」(1989年新語・流行語大賞銅賞)とビジネスマンが栄養ドリンクを一気飲みしている同じ瞬間に、社会党のマドンナ旋風が吹き荒れ、日本初のセクハラ裁判が始まり、女子の大学進学率が初めて男子を上回る。男性はアッシーかオタク、女性はオヤジギャルかオバタリアン、というラベリングがされた(『年表・女と男の日本史』藤原書店)。

 

 それぞれは独立したスコアだが、こうやって重ねてみると、1989年が色濃く立ち上がってきた。
 少し時計を巻き戻すと、浅田彰は『逃走論』(筑摩書房1984年)で、《何もかも放り出して逃走の旅に出たらどうだろう》と呼びかけた。1988年創刊の『Hanako』は「私のため」という言葉だらけだった。とっくに大論の世界は終わっていて、外部(社会)との関係が断ち切られた個の世界に突入していたことがあらわになったのが1989年だったのだ。80年代に興り、90年代に隆盛となった「自分探し」ブームも、オウムの事件も、1989年を起点にスコアを重ねると得心する。

 

 では「わたし」のスコアと「あなた」のスコアを重ねてみたら? 目の前の事象を新しいスコアで切り取ってみたら? あ、別様の世界が見えてきた。

▲1989年の死者の本たち。左から開高健『輝ける闇』新潮文庫、森敦『意味の変容』ちくま文庫、隆慶一郎『吉原御免状』新潮文庫、手塚治虫『ぼくのマンガ人生』岩波新書。

 

文・アイキャッチ/角山祥道(43[花]錬成師範)


 

【第43期[ISIS花伝所]関連記事】
43[花]習いながら私から出る-花伝所が見た「あやかり編集力」-(179回伝習座)
『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS ~43[花]SPECIAL~
『芸と道』を継ぐ 〜42[花]から43[花]へ
位置について、カマエ用意─43[花]ガイダンス
フィードバックの螺旋運動――43[花]の問い
<速報>43[花]入伝式:問答条々「イメージの編集工学」
43[花]入伝式、千夜多読という面影再編集

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『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51 https://edist.ne.jp/cast/isis-wave51_okinokazuo/ https://edist.ne.jp/cast/isis-wave51_okinokazuo/#respond Sat, 10 May 2025 22:54:56 +0000 https://edist.ne.jp/?p=85752 毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]

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毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。51回目の今回は、沖野さんのお仕事エッセイ。沖野さんが仕事のなかで見つけた「型」とは?

 

■■[守]の「型」で会社と仕事の見方が変わった

 

《注意のカーソル》。イシス編集学校の基本コース[守]の初期に学ぶ型だ。これは、誰の頭の中にも備わっているブラウザーのことで、普段は無意識に動かしている。編集学校では、注意のカーソルを意図的に動かすことを覚える。いや、動かさないと、お題が解けない。乏しい知識のストックでは、言葉のインスピレーションが続かない。外に出て周りを見渡し、注意のカーソルを動かし続けることが大事だった。イシス編集学校に出会ったのも、注意のカーソルが偶然にも、それを示したからだ。


その出会いは、しかし、悲しいお知らせからだった。松岡正剛氏の訃報に触れたことで、『知の編集工学 増補版』(松岡正剛・朝日文庫)を知り、この本の中で、自分中で長年求めていたものに出会った気がしたからだ。


私は、自動車会社で商品企画、マーケティング、ブランディングの仕事に携わってきた。今は、交通に新しい価値を付加するMaaS(Mobility as a Service)という分野でアプリの運営に携わっている。専門領域でいえば、企画、マーケティングとなるかもしれないが、大企業で様々な部署を経験しただけともいえる。専門性を問われれば、「資料を作っていました」という感じだ。情報を集め、ストーリーを考え、資料をつくり、説明し、合意形成して、プロジェクトを前に進める。それが私がやってきたことだ。
会社生活も最終盤に入り、自分の専門性について、自問していた。そんな時に出会ったのが、『知の編集工学 増補版』で、私は一読して、「これだ!」と思った。ここには、バラバラのものをつなぎ合わせ、面白くする方法が書かれていた。自分が会社生活で培っていた専門性と重なるのでは? と何かを発見した気分だった。

▲沖野さんが愛読する『知の編集工学 増補版』。付箋の数が読み込み度を物語る。


私の現在の仕事はいわゆる新規事業だ。誰も正解がわからない新しい分野だ。だから、様々なステークホルダーとの共通言語はない。ソフトウェアエンジニアとの間でも、共通言語を探すのに苦労する。そんな時に役だったのが、[守]で学んだ「型」だった。情報を「地」(ground)と「図」(figure)で捉え直す《地と図》、ルール・ロール・ツールを編集する《ルル三条》だ。これらが、相手の立場や、想いを理解するのに大いに役立った。以前の自動車での仕事は、先人たちが培った編集技法により共通言語が行き渡っていたことにも気付かされた。堅苦しいと思っていた社内会議のお作法は、《ルル三条》が洗練されたものだったらしいこと。《要素》《機能》《属性》を用いた情報の整理は、商品のアピールを考える際の基本となるものだった。


一方で、「ありえない言葉」をつくるお題《やわらかいダイヤモンド》では、自分の中の語彙を広げるインスピレーションの乏しさにも気がつかされた。実は、これこそ、人のこころを動かす企画を作る際には大事なことだと思う。会社生活では気づかなかったことだ。そうしてみると、日常の見え方も変わってきた。会社から見える美しい木々が連なる公園の風景は、どの様に言葉で表現できるだろうかと考えるようになった。


会社員としてのキャリアの再整理のために、挑んだ編集学校であったが、自分の新しい面を発見できた。応用コースの[破]で、小学生以来の物語を作るのが、今から楽しみだ。

組織に「専門性」が蔓延ると、事業も制度も人も固定化されやすくなります。一方、「編集がわたしの専門」と気づいた沖野さんには、社内の「型」に気づき、あらゆるものが編集された状態だと見えてきているのでしょう。今後の沖野さんの編集対象は、人々の移動体験。街・人・車といった見える《三位一体》から、雰囲気・音・感触といった見えない《三位一体》まで、《注意のカーソル》を縦横無尽に動かし、新たな物語へと編集していってくれることでしょう。

写真・文/沖野和雄(54[守]たまむしメガネ連教室、54[破]風土粋粋教室)

編集/チーム渦(柳瀬浩之、角山祥道)

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『NEXUS 情報の人類史 下』×3× REVIEWS https://edist.ne.jp/nest/nexus02_3reviews/ https://edist.ne.jp/nest/nexus02_3reviews/#respond Thu, 08 May 2025 22:58:22 +0000 https://edist.ne.jp/?p=85682  松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  歴 […]

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 松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」
 歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの最新刊『NEXUS 情報の人類史』(河出書房新社)を読み解く2回目。今回はAI革命をテーマにした「下巻」に挑みます。ハラリは、AIに依存する現代社会の未来をどう予測しているのか。3人の読みを重ねます。


 

『NEXUS 情報の人類史 下――AI革命』×3× REVIEWS

 

1 AI監視社会ではない、別様の社会を想像する
第6章 新しいメンバー──コンピューターは印刷機とどう違うのか
第7章 執拗さ──常時オンのネットワーク

 

上巻の最後は「AIによるルール・ロール・ツールの変化」が語られた。では、AIの進化が、どのような社会を生み出すのか。

 スタバで友人との他愛もない会話。1人でゆっくり読書。そうした時間も24時間監視されていたら。言動だけでなく心という情報まで盗られていたら。リラックスできる時間のない、”常時オン”が求められる社会。これは映画の話ではなく、AI官僚の登場により、刻一刻と近づいている現実である。
 コンピューターに善悪はない。諸刃の剣をどう使うかが今我々に問われているのだ。コンピューターは人間の拡張であるが、同時に人間を変える。chatGPTを学ぶことに必死になる前に、次の社会を想像しなければならない。今こそ新たな物語が必要なのだ。(多読アレゴリア【OUTLYING CLUB】柳瀬浩之


2 アルゴリズムが自由を阻害する
第8章 可謬──コンピューターネットワークは間違うことが多い
第9章 民主社会──私たちは依然として話し合いを行なえるのか?

 

AIの脅威は、様々な既存システムを壊していくが、その力は、民主主義というシステムにさえおよぶ。

 コンピューターは無垢ではない。独自の根深い偏見を持っている。それは、データベースの中にある人間の差別意識の投影にほかならない。SNSのアルゴリズムの偏りがロヒンギャの虐殺を導いたように、アルゴリズムやAI依存により、自由な討論さえ統制され、民主的な情報ネットワークの崩壊が始まっている。
 皮肉にも、高度な情報テクノロジーでは民主主義の根幹である大多数の合意が難しい。人類は今、生物以外が歴史に関与するという新しいフェーズの中で、あらゆる既存のシステムの破壊が起きている。さらなる破壊か再生となるかは、人の物語の書き直しが必要だ。(55[守]師範・北條玲子)


3 「離見の見」で世界と自分を更新する
第10章 全体主義──あらゆる権力はアルゴリズムへ?
第11章 シリコンのカーテン──グローバルな帝国か、それともグローバルな分断か?
エピローグ

 

AIの登場が、歴史に転換点をもたらす。この先がどのような世界になるかは我々の選択次第だ。何が鍵を握るのか。

 各国のAI開発競争は何をもたらすのか。ハラリは、アルゴリズムによって世界が全体主義に席巻されるデストピアを予言する。世界を滅ぼすのは原爆やウイルスではない。AIが、他者を信じられない社会を生み出すのだ。例えばプーチンのロシアのような独裁主義の国は、容易に権力者がAIに取ってかわられる。ビジネスでも寡占化が進む。今や米国最大の衣料品小売業者はAmazonだ。
 スマホやPCを使っている限り、アルゴリズムから自由になることはできない。ではどうしたらいいか。ハラリの見方に「日本という方法」を重ねるならば、おそらく必要なのは、世阿弥のいう「離見の見」だ。自分の見方や手にした情報をいったん捨て、離れたところから世界をもう一度、見る。自分と情報ネットワークとを常に修正・更新するのだ。私たちはAIの隷属者ではないのだから。(多読アレゴリア【勝手にアカデミア】み勝手・角山祥道)

『NEXUS 情報の人類史 下――AI革命』
ユヴァル・ノア・ハラリ著/柴田裕之訳/河出書房新社/上下各2200円(税込み)

◆下巻目次

 

第Ⅱ部 非有機的ネットワーク

第6章 新しいメンバー──コンピューターは印刷機とどう違うのか
連鎖の環/人間文明のオペレーティングシステムをハッキングする/これから何が起こるのか?/誰が責任を取るのか?/右も左も/技術決定論は無用

第7章 執拗さ──常時オンのネットワーク
眠らない諜報員/皮下監視/プライバシーの終わり/監視は国家がするものとはかぎらない/社会信用システム/常時オン

第8章 可謬──コンピューターネットワークは間違うことが多い
「いいね!」の独裁/企業は人のせいにする/アラインメント問題/ペーパークリップ・ナポレオン/コルシカ・コネクション/カント主義者のナチ党員/苦痛の計算方法/コンピューターの神話/新しい魔女狩り/コンピューターの偏見/新しい神々?

第Ⅲ部 コンピューター政治

第9章 民主社会──私たちは依然として話し合いを行なえるのか?
民主主義の基本原則/民主主義のペース/保守派の自滅/人知を超えたもの/説明を受ける権利/急落の物語/デジタルアナーキー/人間の偽造を禁止する/民主制の未来

第10章 全体主義──あらゆる権力はアルゴリズムへ?
ボットを投獄することはできない/アルゴリズムによる権力奪取/独裁者のジレンマ

第11章 シリコンのカーテン──グローバルな帝国か、それともグローバルな分断か?
デジタル帝国の台頭/データ植民地主義/ウェブからコクーンへ/グローバルな心身の分断/コード戦争から「熱戦」へ/グローバルな絆/人間の選択

エピローグ
最も賢い者の絶滅

 

■著者Profile

ユヴァル・ノア・ハラリ( Yuval Noah Harar)
1976年生まれ。イスラエルの歴史学者。ヘブライ大学歴史学部教授。石器時代から21世紀までの人類の歴史を概観する著書『サピエンス全史』(2011年)は、2014年に英訳、2016年に日本語訳されるなど、あわせて50か国以上で出版されベストセラーとなった。フェイスブックの創始者ザッカーバーグは、同書を「人類文明の壮大な歴史物語と評した。オバマやビル・ゲイツも同書の愛読者と言われる。巨大AIに関しては一貫して警鐘を鳴らし続けている。

 

出版社情報

 

3× REVIEWS(三分割書評)を終えて

 複雑な社会に生きていると、正解がわからず、つい何かにすがりたくなる時がある。法律、科学、尊敬する人の言葉など……今後はそれがAIなのかもしれない。だが私たちは、これからも何かひとつに正解を委ねてはいけないのだろう。安易な答えに走ってはならないのだ。「わたし」も社会も、自分たちの手で修正・更新し続ける決意と覚悟が必要とされている。(チーム渦・柳瀬浩之)

 

『NEXUS 情報の人類史(上巻)』×3× REVIEWS こちら

 

これまでの× REVIEWS

安藤昭子『問いの編集力』×3× REVIEWS

ブレディみかこ『他者の靴を履く』×3× REVIEWS

福原義春『文化資本の経営』×3×REVIEWS

鷲田清一『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS(43[花])

前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS勝手にアカデミア
四方田犬彦編『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS勝手にアカデミア

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裏路地にちりばめられた物語の断片を探しに――土田実季のISIS wave #50 https://edist.ne.jp/cast/isis-wave50_tsuchidamiki/ https://edist.ne.jp/cast/isis-wave50_tsuchidamiki/#respond Fri, 02 May 2025 22:53:15 +0000 https://edist.ne.jp/?p=85463 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。   好評の連載エッセイ「ISIS wave」、記念すべき50回目に登場してくれるのは、53[破]イメージ・チューナー教室の […]

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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

好評の連載エッセイ「ISIS wave」、記念すべき50回目に登場してくれるのは、53[破]イメージ・チューナー教室の師範代を終えたばかりの土田実季さん。数奇と散歩と編集をつなげた格別のエッセイをお届けします。

 

■■「わたしフィルター」の地図を手に

 

裏路地を目的もなく歩くことが好きだ。昭和の民家が並んでいるような住宅街は、とくにいい。間口の広いコンクリートの立方体が毅然と立ち並ぶ大通りから、ひょいと一つ裏に入るだけで、形も素材も凸凹で、夕飯の匂いが漏れ出すような無防備な世界が広がっている。私は、そんな一つ裏の景色が好きだった。でも、なんで好きなのかは考えたことがなかった。

 

街歩きが好きな友人と散歩をすると、見ている景色の違いに驚く。「雨樋の端っこ、菊みたいに細工してあ ったの、見た?」「さっきの看板、テープ文字だったね」「あの家、ツバメ専用の入り口がある!」。へぇ、そんなとこ見てたんだ、とやんわり感じていたこの差異は、編集学校に入ると、《フィルター》の違いなのだと気づく。タイルとすりガラスに目がない私は、どうやら「家主のこだわり」をキャッチするフィルターが備わっているようだ。カチャ、と誰かのフィルターと替えっこしたら、違う景色が目の前に広がりそうで、わくわくする。

▲「わたしフィルター」が掛かった地図は誰かとシェアすると何倍も楽しい。

 

編集稽古は心地よくて、どんどん奥に誘われた。鼻歌まじりに進んでいくと、見立て》《メタファー》という方法に出会う。これが、楽しい。街の景色も何かに喩えられるかな? と、推しの水路を思い出す。金沢のまちに広がる用水のネットワークの中でも、私の推しは、立体交差している箇所だ。「用水ジャンクション」とネーミングしてみる。すると、高速道路を走る感覚が想起され、用水が通行可能な移動網のように見えてくる。道を歩くのではなく、水流に乗って街の景色を見たら、どんなふうに見えるだろうか。似たもの同士で関係線を引いてみると、いつもは見えない景色が広がっていく。編集術は、身近な景色をどんどんいきいきとさせてくれるものだった。

▲用水ジャンクション。なぜ、高さの違う用水が? できた年代が違うのだろうか

 

 けれど、この頃ほとんど散歩の写真がない。ちょうど[花伝所]に入伝した頃からだ。のんびり散歩に行く時間がなかったのだなぁと、濃密な日々を思い出す。でも、不思議だ。以前は仕事が忙しいときほど散歩に行きたくなったのに、この一年半はそうではなかった。なんでだろう。Whyを考えると、はたと気づく。私にとって「師範代」を纏っての稽古は、うずうずして仕方ない、裏路地散歩と相似なものだったのだ。

 

 学衆の回答は、ひとつとして同じものがない。それは、最適化された国道沿いの景色ではなく、「らしさ」と戸惑いが凸凹に滲む裏路地の景色のようだった。回答がうまれるまでの思考のプロフィールを想像しながら指南を届ける。対話を重ねていくと、言葉の端々にその人の好きなものやこれまで歩んできた道、見逃せない世界へのモヤモヤが宿っていると分かるようになる。回答は、その人その人の人生の物語の断片なのだ。

 そして、また、ハッと気づく。裏路地散歩を私が好きなのは、「小花柄のすりガラス」や「用水の結節点」といった裏路地にちりばめられた情報の断片から、奥に潜む暮らしぶりや歴史の物語を想像したり、読んだりすることが好きだったのだと。

▲水路に注目して地図を眺めると、住宅街の中に気になる用水の結節点を発見。足を運んでみると、加賀藩時代の「木揚場」の景色の断片の樹が佇んでいた。

 

 「裏路地散歩=裏路地を歩く」と思い込んでいたけれど、学びの場にも裏路地な景色があった。ならば、「地」を本に変えたら裏路地を歩くような読書ができるかもしれないし、裏路地散歩な部屋の掃除だってできるかもしれない。「裏路地」の意味も多様に広がってゆく。

 

 雪解水が用水を潤す、散歩日和の春がやってきた。今年は、どこを舞台に裏の散歩をしようか。奥に潜む物語を読みに、まだ散歩をしたことがない「地」に繰り出したい。

「私」を「私」と意味づけるエディティング・モデル。『知の編集工学』で松岡正剛は、コミュニケーションは「メッセージの交換」ではなく「エディティング・モデルの交換」であると喝破しました。土田さんは散歩をしながら街をリバース・エンジニアリングし、問いを立て、街のモデル(型)と対話しました。こうしてエッセイを書くことによって、街とだってエディティング・モデルを交換できると教えてくれたのです。編集ってやっぱり面白い! という著者の声がエッセイから聞こえてきます。

文・写真/土田実季(50[守]外骨ジャーナル教室、50[破]モーラ三千大千教室)

編集/チーム渦(羽根田月香、角山祥道)

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【勝手にアカデミア】『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS https://edist.ne.jp/nest/academia-seijun_essay_3reviews/ https://edist.ne.jp/nest/academia-seijun_essay_3reviews/#respond Wed, 30 Apr 2025 05:00:40 +0000 https://edist.ne.jp/?p=85498  戦後すぐに鎌倉にできた伝説の学校「鎌倉アカデミア」。多読アレゴリアの【勝手にアカデミア】では、同校の「学びのモデル」を取り出してきた。25年春シーズンは、同校の映画科をもどき、卒業生・鈴木清順の方法を共読した。ではいっ […]

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 戦後すぐに鎌倉にできた伝説の学校「鎌倉アカデミア」。多読アレゴリアの【勝手にアカデミア】では、同校の「学びのモデル」を取り出してきた。25年春シーズンは、同校の映画科をもどき、卒業生・鈴木清順の方法を共読した。ではいったい「鈴木清順」とは?

 松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。今回は、『鈴木清順エッセイコレクション』(ちくま文庫)を【勝手にアカデミア】のはとさぶ連衆(受講生)4人で読み解きたい。


 

【勝手にアカデミア】による『鈴木清順エッセイコレクション』×3× REVIEWS 

 

●1 撮る清順、書く清順

ゆき あめ かぜ
Ⅰ 日記から/縄張り/犬の顔をした水鬼
Ⅱ 路地は相変わらず静かだった……/生れたとしが大震災/東京語と地方語/味/あだ花/洋パンと『野良犬』と自動小銃
Ⅲ たった一人の戦争/廃墟/敗戦の日/わがナチ体験――ベルリンの英雄/『悲愁』以降/戦争映画と女の顔

 

なぜ映画監督・鈴木清順は膨大なエッセイを残したのか。清順は何を言葉にしようとしたのか。

 「暇になったから」。鈴木清順がエッセイを書き始めた理由だ。1968年に日活から解雇通告を受け裁判に。映画から締め出されたことが彼の活動を広げたのだ。エッセイを投稿した媒体も新聞、現代詩・漫画雑誌と様々だ。
 映画史家でエッセイストでもある編集者の四方田犬彦は清順の散逸するエッセイがこのまま眠ってしまうのは惜しいと考えたに違いない。清順の人となり、映画制作の歴史が鮮明となるよう彼の眼となって整理している。
 まずは「ゆき かぜ あめ」の場面の制作裏話が挨拶がわりだ。次に、自分が愛する妻・猫・犬が登場し、マイヒストリー、戦時ものと続く。五感で捉えた「実」の世界をフレームの中に言語化する。これが「清順メソッド」だ。(彦星・齊藤肇)


●2 矜持を手に、街に出よ

Ⅳ アナキストは誰だ!/夏と暴力/花/流れ者/ある旅人の試行錯誤――思考と感覚/暴力探しにまちへ出る
Ⅴ わたしと就職/桜の樹の下の砂漠/暗い青春の記念碑/フィルムは滅びてこそ/わが落した魂よ!/大映・日活映画の黄昏/料理/滅亡的脱コマーシャル論

 

鈴木清順は、世間を覆っている薄い膜をベリベリと引き剥がす。そこから顔を覗かせたものに、清順は人間の本質を見ていた。

 清順は、エッセイの文章も映像化して見せる作家である。取り上げる題材も、今では語られることの少ないアナキストや結社、そして流れ者や旅人だ。「大杉栄が法隆寺の救世観音のように白い包帯でぐるぐる巻きにされ甦ったとしたら」や「いろ男でありながら手にした恋も金貨も冒険も手折った薔薇のように捨てなければならぬ運命の男」などという捉え方は、清順の映像そのものだ。暴力を探しに町に出かけるくだりなど、独特の世界観に引き込まれた。ここには、清順の生きてきた時代があった。(里星・岩上百合子)

 この頃の清順は、しばし映画から離れて生業を立てていた。学生はヘルメットをかぶり、ラジオからはグループサウンズが流れ、世は敗戦国であることを忘れようとしていた。
 しかし清順はアニメやCMを撮りながらも、映画監督としての悲哀と矜持を片時も忘れなかった。20歳で陸軍に入隊した清順は、戦争に人間の本質を見た。清順は、いずれは滅びるフィルムというものにその本質を焼きつけたかったのだ。清順の言葉を借りるなら「ユメとチボウを持って」映画監督であり続けたのである。(帆路・A.M)


●3 清順美学という方法
Ⅵ ゆったりした気分/小百合・良子・由美子ともう一人の女優/『陽炎座』の頃/教祖さまは出べそでなければならない/畏友美術監督――木村威夫さん/交攻の五人
Ⅶ 色/花を摘むのは女であり虫を殺すのは男である/萩は恋を失ったまち/袖/恋愛/役者/温泉芸者恋慕の記
Ⅷ 大正エレジー/のり物づくし/騒氏断片、或いは林静一への片思い/竜宮で貰った「聴く耳」/本はみるものである/秘色――色と恐怖

 

清順の追求した「美」とは何か――。

 映画人の栄光は、華々しいだけに悲しみは深い。時代の理不尽をグッと飲み込み、40本の映画を撮り続けた清順に、日活社長は一方的な解雇を言い渡す。映画表現を奪われた清順は、遠のく大正を借景に、昭和の「野糞のたれっ放しの無責任時代」をエッセイに放つ。たゆたう人生の因果を意地と美学に封じ込め、体験に根ざした独自の色彩感覚が行間を行き来する。成らざるを知って生きるべきか、死すべきか。悲哀を忘れた日本人よ、清順美学を学び直せ!(穂凪・原田祥子)

『鈴木清順エッセイコレクション』
四方田犬彦編/ちくま文庫/2010年8月/1500円(税別)

 

■目次

ゆき あめ かぜ

Ⅰ 日記から/縄張り/犬の顔をした水鬼
Ⅱ 路地は相変わらず静かだった……/生れたとしが大震災/東京語と地方語/味/あだ花/洋パンと『野良犬』と自動小銃
Ⅲ たった一人の戦争/廃墟/敗戦の日/わがナチ体験――ベルリンの英雄/『悲愁』以降/戦争映画と女の顔

Ⅳ アナキストは誰だ!/夏と暴力/花/流れ者/ある旅人の試行錯誤――思考と感覚/暴力探しにまちへ出る
Ⅴ わたしと就職/桜の樹の下の砂漠/暗い青春の記念碑/フィルムは滅びてこそ/わが落した魂よ!/大映・日活映画の黄昏/料理/滅亡的脱コマーシャル論

Ⅵ ゆったりした気分/小百合・良子・由美子ともう一人の女優/『陽炎座』の頃/教祖さまは出べそでなければならない/畏友美術監督――木村威夫さん/交攻の五人
Ⅶ 色/花を摘むのは女であり虫を殺すのは男である/萩は恋を失ったまち/袖/恋愛/役者/温泉芸者恋慕の記
Ⅷ 大正エレジー/のり物づくし/騒氏断片、或いは林静一への片思い/竜宮で貰った「聴く耳」/本はみるものである/秘色――色と恐怖

略年譜/改題 四方田犬彦/出典

 

■多読アレゴリア【勝手にアカデミア】がお送りする書評記事第二弾はいかがだったでしょうか。当クラブは、鎌倉吟行映画鑑賞&雑談会など体験重視。さらに、こんなふうに遊刊エディストで記者デビューも。プロのライターの指導入りなので誰でも大丈夫。「文章術」も身につけられるのが【勝手にアカデミア】の特徴です。25夏シーズンの入会、お待ちしております(せん師・大塚宏)

 

「勝手にアカデミア」をもっと知るには

 

○3× REVIEWS(三分割書評)
【勝手にアカデミア】『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS

○吟行レポ

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア】はとさぶ連衆、鎌倉に集い俳句を詠みつつアカデミア構想に巻き込まれるの巻

○クラブ紹介

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア①】勝手にトポスで遊び尽くす

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア②】文化を遊ぶ、トポスに遊ぶ

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア③】2030年の鎌倉ガイドブックを創るのだ!

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア】勝手に映画だ! 清順だ!(25春)


 

◆Info 多読アレゴリア2025夏

 

【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025summer

 *多読アレゴリア2024春から継続の方は申し込み手続きは不要です。

【開講期間】2025年2025年6月2日(月)~8月24日(日)
【申込締切】2025年5月26日(月)
【定員】20名(勝手にアカデミア)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
 以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
 例)2025夏申し込みの場合
 購入時に2025年6月分を決済
 2025年6月26日に2025年7月分、以後継続

 ・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
 ・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。


 

2025夏 多読アレゴリアWEEK

募集開始★多読アレゴリア 2025・夏スタート!!!!!!!

 

▼倶楽部撮家

写真仲間求む!編集術でカメラと戯れる【倶楽部撮家】が多読アレゴリアにやってきた

 

▼カオス的編Rec

津田一郎監修クラブ【カオス的編Rec】誕生!科学的読書法に学び、「Qの地図」を描く

 

▼勝手にアカデミア

『鈴木清順エッセイコレクション』x3xREVIEWS

 

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発掘!「めぶき」――当期師範の過去記事レビュー#01 https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu01/ https://edist.ne.jp/nest/hakkutsu01/#respond Sun, 27 Apr 2025 23:01:20 +0000 https://edist.ne.jp/?p=84713  2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである守・破・花の当期師範 […]

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 2019年夏に誕生したwebメディア[遊刊エディスト]の記事は、すでに3800本を超えました。新しいニュースが連打される反面、過去の良記事が埋もれてしまっています。そこでイシス編集学校の目利きである守・破・花の当期師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けします。
 1回目は春ならでは、「めぶき」のテーマで発掘!


師範代の生きた編集を読むならコレ

林朝恵 43[花]花目付の発掘!

【Archive】ジャイアンリサイタル――46[守]の大冒険

師範代が初登板中に連載記事を書くなんて事件でした。編集学校で一番面白いことが起きているのが教室ではありますが、その模様をほぼリアルタイムで外に向けて書くということは、それなりの覚悟が必要だったはずです。仕事と掛け持ちしながら師範代をするだけだって挑戦なのに、ほぼ毎週、記事を配信するなんて並大抵のことではありません。何をアケて何をフセるのかの塩梅だって難しい。それでも角山祥道さんは工夫を重ね師範代とライターの両方をやってのけました。どんなゴールが待っているのかもわからない中、綴られた師範代の言葉は瑞々しく、今読んでも胸がジュワッと熱くなります。ぜひ「未来の師範代」にこそ読んでもらいたい

あやかる! 編集的自己像を求めて

戸田由香 54[破]番匠の発掘!

【エディスト占い】あなたはどのエディストタイプ?

「めぶき」ははじまりの季節。なににせよ物事のはじめには占いがつきものだ。雑誌の占いはスルーだが、この記事はわたしの眼にまっすぐ飛び込んできた。今日の運勢ではなく、エディストタイプ占いというところが嬉しい。十人のエディストタイプは《白川静》をはじめとして、イシス人なら誰もが知る編集ビッグネームばかり。らしさ満載な似顔絵付きなのもいい。占うのは推命道観教室の名をもつ竹川智子師範。似顔絵はプロのイラストレーターで勇敢パレット教室の西森千代子師範代。フムフム、松岡正剛校長は《黒澤明》なのね。さて、わたしは? ……結果はやれうれしや、校長と同じタイプだったのでした。この占いで、新たなあやかり先を発見できるかも?

靴を履き替え、その一歩踏み出そう

景山和浩 55[守]師範の発掘!
時を超えた足元ミーム ~ウルトラマンからヘビへ~ 53[守]伝習座

その日の校長校話では、ヴィヴィアン・ウエストウッドの言葉が紹介されていた。「靴から決めなさい」。そのため福澤美穂子師範のカーソルは、いつも以上に足元に向かっていたのだろう。53[守]春の伝習座だった。「冨澤学匠のウルトラマンのスニーカーを覚えていますか?」。帰りの小田急でそう聞かれた。用法解説を担当した石黒好美師範のヘビ柄のパンプスを見て思い出したという。冨澤学匠の勝負服。ぜひエディストをと持ちかける前に、福澤師範の中では既に構想を練り始めていたようだった。靴から決める・ヘビ柄のパンプス・ウルトラマンのスニーカー。足元に受け継がれるミーム。久しぶりに[守]に帰ってきた福澤師範ならではの記事が生まれた瞬間だった。

 

 芽は形成されてからある段階になると、成長を停止して休眠状態となります。「めぶき」のためには、気温上昇や日照など外部条件が必要です。では私たちの「めぶき」の条件とは? 「他者の見方」は外部刺激となって新たな芽吹きをもたらしてくれるかもしれません。

 みなさんも、遊刊エディストの中から「めぶき」でピンと来る記事を発掘してみてください。きっと新しい発見があるはずです。

 

 

アイキャッチ/阿久津健(55[守]師範)

編集/角山祥道(43[花]錬成師範)

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【勝手にアカデミア】『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS https://edist.ne.jp/nest/kamakura-academia_3reviews/ https://edist.ne.jp/nest/kamakura-academia_3reviews/#respond Sat, 26 Apr 2025 23:00:05 +0000 https://edist.ne.jp/?p=82157  松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  多 […]

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 松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「× REVIEWS」。
 多読アレゴリアのクラブ【勝手にアカデミア】は今回、はとさぶ連衆(受講生)の3人が、自分たちのキーブックである『三枝博音と鎌倉アカデミア』のヨミトキを三分割書評で挑戦。伝説の学校をレビューで活写する。


 

【勝手にアカデミア】による三枝博音と鎌倉アカデミア』×× REVIEWS 

 

戦後の混乱期に誕生した奇跡の学校

序章 鎌倉アカデミアがめざしたもの――野散の大学・四年半の軌跡
第1章 学問の深さと厳しさ――哲学者・三枝博音の歩んだ道
第2章 楽しい学園をめざして――「自分」の頭で考える人間づくり

 

「鎌倉アカデミア」とはいったい何だったのか。松岡正剛校長も千夜千冊で評価した三枝博音(二代目校長)の思想から深掘りする。

 「鎌倉アカデミア」は学びの理想郷だ。戦後の混乱が続く1945年秋、鎌倉大学校として鎌倉に創設された。西洋哲学を志し、技術が知力発達の母胎であると考えて三浦梅園に学んだ三枝博音が、その二代目校長に就任する。三枝は、プラトンのアカデメイアに掲げられた「幾何学を知らぬ者、くぐるべからず」を、学園山門に掲げた。科学的に、自分の頭で考える学問の場を作ろう、「楽しい学園」を目指そう、と。大学の認可を得られぬ上に資金難に見舞われ、4年半で廃校の憂き目に遭った学園だが、数多の有為の人材を輩出したと今も語り継がれる。鎌倉の文化人が、進駐軍の慰安施設建設に異を唱え、文化主義の理想の為に惜しみない情熱と資源を注いで守ろうとした「鎌倉アカデミア」は、戦後教育史に名を残す古都の誇りである。(晶月・安田晶子)


現役の俳優が作家が躍動す
第3章 多彩で個性的な教授たち――作家・高見順も教壇に立つ

 

「鎌倉アカデミア」の特異性は、参集した教授陣のその顔ぶれの多彩さにあった。

 鎌倉アカデミアを特徴づけるのは、なんといっても多彩な教授陣だ。学者、作家、俳優、映画監督と多岐にわたる。終戦直後の混乱期にこのような逸材たちが集ったことがまず驚きである。それは鎌倉という場所にも起因するのか。まずは後に校長となった三枝博音。長髪をかき上げ「哲学はすべての学問に通じる根本である」と語るのが常だ。産業科の菅井準一は、自然科学研究者として生きた科学を教えた。ウィーン大学で学んだ俳優の遠藤慎吾は、演劇科の学生に読書と思索を徹底させた。文学科の吉野秀雄は、桜の下で『万葉集』を講義した。『ゴジラ』脚本家として知られる村田武雄は、映画科で「嘘はいけない」と説いた。多士済々の一言居士。これが、鎌倉アカデミアの教授たちだ。(歩風・伊東賢伸)


今も続く、学び合う共同体の精神
第4章 鎌倉アカデミアに来い――教える者と学ぶ者の人間ドラマ
第5章 種蒔く小さな集団――己れを信ずる者の新しい旅立ち
終章 光は闇の中で見える――語り継がれる鎌倉アカデミア

 

なぜ「鎌倉アカデミア」は終わりを迎えたのか。「鎌倉アカデミア」とは何だったのか。

 鎌倉アカデミアは開校するや否や、次々と身包みを剥がされていった。間借りの校舎も、大学令の拠所となり得たはずの財産も、そして大学の名も。残ったものは、学び合う教師たちと学生たちの日々の交歓であり、新たに生まれたのはアカデミアの名であった。責任を全うできない理事会を排斥した教員と学生と父兄がその場を維持した。産業科の野崎茂によれば、鎌倉アカデミアは、学校という体裁をとっているものの、実は文化運動の拠点にほかならず、従って三枝先生は文化運動のリーダーだった。昭和25年9月に移転先の大船校舎で廃校となったが、学び合う共同体の精神は今もって続いている。(日々・大塚宏)


『三枝博音と鎌倉アカデミア 学問と教育の理想を求めて』
前川清治/中公新書/1996年5月25日/680円(税別)

■目次
序章 鎌倉アカデミアがめざしたもの――野散の大学・四年半の軌跡
第1章 学問の深さと厳しさ――哲学者・三枝博音の歩んだ道
第2章 楽しい学園をめざして――「自分」の頭で考える人間づくり
第4章 鎌倉アカデミアに来い――教える者と学ぶ者の人間ドラマ
第5章 種蒔く小さな集団――己れを信ずる者の新しい旅立ち
終章 光は闇の中で見える――語り継がれる鎌倉アカデミア
あとがき

 

× REVIEWS(三分割書評)を終えて

 やはり「鎌倉アカデミア」はイシス編集学校のアーキタイプだ。ここには、「教える」「学ぶ」の固定的な関係を越えた相互の学びがあった。なにもない戦後の混乱期に、有志によって理想の学校が創られたという事実は、私たちにも勇気を与えてくれる。「鎌倉アカデミア」モデルは、今の時代にこそ必要なのではないだろうか。(み勝手・角山祥道)

多読アレゴリアのクラブ【勝手にアカデミア】は、吟行に映画会にと体験重視。そして極めつけの体験は、記者デビュー。こんなふうに誰でも遊刊エディストで記者デビューできます。プロのライターの指導入りなので、誰でも大丈夫。「文章術」も学べるのが、【勝手にアカデミア】の特徴です。25夏シーズンの入会、お待ちしております。(せん師・大塚宏)

●「勝手にアカデミア」をもっと知るには●

○吟行レポ

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア】はとさぶ連衆、鎌倉に集い俳句を詠みつつアカデミア構想に巻き込まれるの巻

○クラブ紹介

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア①】勝手にトポスで遊び尽くす

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア②】文化を遊ぶ、トポスに遊ぶ

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア③】2030年の鎌倉ガイドブックを創るのだ!

【多読アレゴリア:勝手にアカデミア】勝手に映画だ! 清順だ!(25春)


◆Info 多読アレゴリア2025夏

 

【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025summer

 *多読アレゴリア2024春から継続の方は申し込み手続きは不要です。

【開講期間】2025年2025年6月2日(月)~8月24日(日)
【申込締切】2025年5月26日(月)
【定員】20名(勝手にアカデミア)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
 ※ クレジット払いのみ
 ※ 初月度分のみ購入時決済
 以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
 例)2025夏申し込みの場合
 購入時に2025年6月分を決済
 2025年6月26日に2025年7月分、以後継続

 ・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
 ・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。

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