39[花]孵化し冒険に旅立つ

2023/07/27(木)14:23
img
孵化して次を掴む

昨年の今頃、花伝敢談儀に出席できるかと私は悩んでいた。妻が臨月だったのだ。そのとき産まれた娘がもう1歳になる。
少し前まで寝ているだけだったが、いまはもう「ずりばい」をする。まだしっかり四つん這いになれないので、ずりずりとはいはいするのである。動き始めた彼女は好奇心の塊だ。縦横無尽に注意のカーソルを動かし、後先考えず突進していく。そして、いつの間にか周りがものに囲まれたり何かに嵌ったりして動けなくなっている。

 

おや、林立するテーブルとイスの脚に突っ込んで嵌ったようだ。窮地にいるようにもみえるが、彼女はやすやすと編集して状況を打開する。
まず泣く。とはいっても少々大きめの声での泣き真似だ。これまで動けなくなった既知の状況からアナロジーを働かせ、この未知も対応できるとカマエているのだ。ほら、誰かが近くにやってきた。お次は、じっとみつめる。相手の注意のカーソルをまんまるボディに向けさせるのである。そして、仕上げに手を差し出す。ずりばいの状態から背筋するように思いっきり腕を上げてはアフォーダンスが動かない。脇をあけるだけ、ほんの少し上げるように出す。すると、相手の両手が4本の指を揃え親指を立ててやって来る。手が差し入れにくそうなのでもう少し体をそらしてやる。いい感じに手が丸みを帯びて近づいてきた。微調整、差し込まれたらしっかり脇を絞めておく。視界が上がった。無事抜け出したのだ。ここで終わらせてはいけない。最後に、ニコニコきゃっきゃっとフィードバックしておくのが重要だ。

 

こうして編集している様子をみると、非言語かつリアルタイムではあるが、乳児が出題をして相手のモデルをリバースし、モデル交換をしながら、抱っこという南に向かって指南しているようである。さらには状況をメタに捉えたときに、抱っこというターゲットに対して直接的に親の足を掴んでねだるというアケではなく、フセて相手に気づいてもらうように庇護欲を刺激しつつ問いかけたような気すらしてくる。あ、だから、林立する脚に毎回嵌っているのか・・・。

 

そもそも窮地に陥らなければ、好奇心に任せて冒険をしなければ、こんなことは発生しない。親としては何も起きない籠の中に入れておけば平穏が保たれる。だが、柵(ベビーガード)があれば超えていく、危ういところに飛び込むから、学びがあるのだ。動き始めた彼女にとって匍匐前進した先にある世界は常に有事で、日々編集力が磨かれている。自らの足で立つ日もそう遠くはない。一抹の寂しさはあるが、かわいい子には旅をさせよ、である。

 

花伝所にも自ら立ち歩み始めに差し掛かっている者たちがいる。演習をしてきた師範代のたまごたちだ。錬成・キャンプで殻を破り、師範代認定という孵化を果たした。最後のプログラム敢談儀に向けて、各道場でプレ敢談(守破で言う汁講)が行われ、苦楽をともにした仲間たちと来し方を振り返りつつ、師範代登板という行く末に向けて用意が進められている。

揺籃期も仕舞いである。もう乗り越えるまでもなくそこに柵はない。放伝生となり、幼な心の、好奇心の趣くままに冒険の旅へ向かう。

 

文 蒔田俊介(花伝師範)

 

【第39期[ISIS花伝所]関連記事】

39[花]キャンプでアートが吹き寄せた

39[花]「代」の可能性

39[花]学びの場に注がれる光

39[花] 偶然のマネジメント 複眼のメイキング

39[花] 2.5次元の扉を開いて

39[花] ガジェット愛◆モニターアームが拡げる世界

39[花] 入伝式「口伝で学(まね)ぶ」

39[花] 入伝式「物学条々」-世界に向かうカマエをつくる

師範代にすることに責任を持ちたい:麻人の意気込み【39[花]入伝式】
◎速報◎マスクをはずして「式部」をまとう【39[花]入伝式・深谷もと佳メッセージ】
◎速報◎日本イシス化計画へ花咲かす【39[花]入伝式・田中所長メッセージ】
ステージングを駆け抜けろ!キワで交わる、律動の39[花]ガイダンス。


  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

  • 41[花]夜稽古で書き伝える刀を研ぐ

    桜はピンク色の花から、緑色の葉へすっかり装いを変えた。時節が移ると変化がある。それは花伝所でも同じだ。前期をうけ、フィードバックをかけ、変化を起こす。    「エディスト練習会やります!」 花目付・林朝恵がボ […]

  • 「まなび」のゆくえ◆53[守]伝習座

    イシス編集学校のかなめは人。元・図書館司書から人材育成へとキャリアシフトし、専攻したドイツ語から方法日本へと原点回帰するのは花伝所きってのビブリオテカール、41[花]師範の山本ユキ。大学院で「学びの見える化」を日々研究す […]

  • 40[花]入伝式「物学条々」~塗師の入伝生・漆椀の道場五箇条

    京セラドームでプロ野球の日本シリーズが開幕した10月28日、豪徳寺では40期花伝所の入伝式が行われた。25名の入伝生は師範代になる道に向かって、原郷から旅立った。旅にはお供が欠かせない。入伝式では、頼れるお供の一つ「道場 […]

  • 【花伝SPエディットツアー】「編集指南」の秘伝、あります!

    フルタイムで仕事して、自宅では家事に子育て、加えて3度のご飯より指南が好き。師範代のポリロール的編集稽古日常は、仕事や生活シーンとも“地続き”だ。遊びから生まれるもの、対話から生まれるもの、不足から生まれるものを逃さずフ […]

  • 39[花]「代」の可能性

    ■モンスターの躍動 大谷翔平と天気予報は毎朝のニュースに欠かせない。WBC決勝戦も二刀流。MLB の歴史を覆すヒーローの躍動は注目せずにはいられない。モンスターの生みの親はWBC2023チームジャパンの栗山監督だ。既存の […]