草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
「チン・チロリン」の虫の音は、「当日は私たちのことにも触れてくださいね」との呼びかけにも聴こえるし、「もうすぐ締め切り!」とのアラートにも聞こえてくる。

昨年の今頃、花伝敢談儀に出席できるかと私は悩んでいた。妻が臨月だったのだ。そのとき産まれた娘がもう1歳になる。
少し前まで寝ているだけだったが、いまはもう「ずりばい」をする。まだしっかり四つん這いになれないので、ずりずりとはいはいするのである。動き始めた彼女は好奇心の塊だ。縦横無尽に注意のカーソルを動かし、後先考えず突進していく。そして、いつの間にか周りがものに囲まれたり何かに嵌ったりして動けなくなっている。
おや、林立するテーブルとイスの脚に突っ込んで嵌ったようだ。窮地にいるようにもみえるが、彼女はやすやすと編集して状況を打開する。
まず泣く。とはいっても少々大きめの声での泣き真似だ。これまで動けなくなった既知の状況からアナロジーを働かせ、この未知も対応できるとカマエているのだ。ほら、誰かが近くにやってきた。お次は、じっとみつめる。相手の注意のカーソルをまんまるボディに向けさせるのである。そして、仕上げに手を差し出す。ずりばいの状態から背筋するように思いっきり腕を上げてはアフォーダンスが動かない。脇をあけるだけ、ほんの少し上げるように出す。すると、相手の両手が4本の指を揃え親指を立ててやって来る。手が差し入れにくそうなのでもう少し体をそらしてやる。いい感じに手が丸みを帯びて近づいてきた。微調整、差し込まれたらしっかり脇を絞めておく。視界が上がった。無事抜け出したのだ。ここで終わらせてはいけない。最後に、ニコニコきゃっきゃっとフィードバックしておくのが重要だ。
こうして編集している様子をみると、非言語かつリアルタイムではあるが、乳児が出題をして相手のモデルをリバースし、モデル交換をしながら、抱っこという南に向かって指南しているようである。さらには状況をメタに捉えたときに、抱っこというターゲットに対して直接的に親の足を掴んでねだるというアケではなく、フセて相手に気づいてもらうように庇護欲を刺激しつつ問いかけたような気すらしてくる。あ、だから、林立する脚に毎回嵌っているのか・・・。
そもそも窮地に陥らなければ、好奇心に任せて冒険をしなければ、こんなことは発生しない。親としては何も起きない籠の中に入れておけば平穏が保たれる。だが、柵(ベビーガード)があれば超えていく、危ういところに飛び込むから、学びがあるのだ。動き始めた彼女にとって匍匐前進した先にある世界は常に有事で、日々編集力が磨かれている。自らの足で立つ日もそう遠くはない。一抹の寂しさはあるが、かわいい子には旅をさせよ、である。
花伝所にも自ら立ち歩み始めに差し掛かっている者たちがいる。演習をしてきた師範代のたまごたちだ。錬成・キャンプで殻を破り、師範代認定という孵化を果たした。最後のプログラム敢談儀に向けて、各道場でプレ敢談(守破で言う汁講)が行われ、苦楽をともにした仲間たちと来し方を振り返りつつ、師範代登板という行く末に向けて用意が進められている。
揺籃期も仕舞いである。もう乗り越えるまでもなくそこに柵はない。放伝生となり、幼な心の、好奇心の趣くままに冒険の旅へ向かう。
文 蒔田俊介(花伝師範)
【第39期[ISIS花伝所]関連記事】
師範代にすることに責任を持ちたい:麻人の意気込み【39[花]入伝式】
◎速報◎マスクをはずして「式部」をまとう【39[花]入伝式・深谷もと佳メッセージ】
◎速報◎日本イシス化計画へ花咲かす【39[花]入伝式・田中所長メッセージ】
ステージングを駆け抜けろ!キワで交わる、律動の39[花]ガイダンス。
イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。 6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場 […]
花伝所のキャンプに地図やガイドは用意されていない。あるのは与件のみ。 既成概念に捉われず多様な触発を引き起こし、よくよく練られた逸脱に向かうカマエが重視される。 43[花]のクライマックスは、2日間にわたる […]
イシス編集学校の目利きである当期の師範が、テーマに即した必読記事を発掘&レビューし、みなさんにお届けする過去記事レビュー。3回目のテーマは、世間を賑わす「空梅雨」。空梅雨をどう読み替えたのか。ここからどんな連想を広げた […]
マッチが一瞬で電車になる。これは、子供が幼い頃のわが家(筆者)の「引越し」での一場面だ。大人がうっかり落としたマッチが床に散らばった途端、あっという間に鉄道の世界へいってしまった。多くの子供たちは、「見立て」の名人。それ […]
43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる
今まで誰も聴いたことがない、斬新な講義が行われた。 43花入伝式で行われた、穂積晴明方源による特別講義「イメージと編集工学」は、デザインを入り口に編集工学を語るという方法はもちろん、具体例で掴み、縦横無尽に展開し、編 […]
コメント
1~3件/3件
2025-07-15
草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
「チン・チロリン」の虫の音は、「当日は私たちのことにも触れてくださいね」との呼びかけにも聴こえるし、「もうすぐ締め切り!」とのアラートにも聞こえてくる。
2025-07-13
『野望の王国』原作:雁屋哲、作画:由起賢二
セカイ系が猖獗を極める以前、世界征服とはこういうものだった!
目標は自らが世界最高の権力者となり、理想の王国を築くこと。ただそれだけ。あとはただひたすら死闘に次ぐ死闘!そして足掛け六年、全28巻費やして達成したのは、ようやく一地方都市の制圧だけだった。世界征服までの道のりはあまりにも長い!
2025-07-08
結婚飛行のために巣内から出てきたヤマトシロアリの羽アリたち。
配信の中で触れられているのはハチ目アリ科の一種と思われるが、こちらはゴキブリ目。
昆虫の複数の分類群で、祭りのアーキタイプが平行進化している。